戦後間もない北海道で起きた放火殺人事件で刑事に追われる男。時を経て地域の名士となるが、再び殺人を犯してしまう…。映画にもなった故水上勉さんの社会派推理小説「飢餓海峡」。舞鶴市も舞台になった▼水上さんは舞鶴のお隣、福井・若狭地域の出身。「雁の寺」「金閣炎上」「ブンナよ、木からおりてこい」など幅広いジャンル、多作で知られた。来月で生誕100年になる▼少年時代の禅寺修行などで水上文学は京都と深いつながりがある。丹後地域もよく登場し、中学生の時に丹後半島を舟で回ったことが「五番町夕霧楼」の主人公の設定にも影響した▼「丹後は故郷に隣接し親近感があったのでは」。水上さんに関する企画展を開いてきた福井県立若狭図書学習センター司書の渡辺力さん(52)は話す。日本海側の丹後や若狭は古来、京の都を人や物で支えてきた▼渡辺さんによると、水上文学のキーワードの一つは「弱者」。貧困の中で育った生い立ちもあり、社会的に弱い立場の人や土地に温かいまなざしを向けた。社会の格差拡大や東京一極集中が進む現在、その視点は貴重に思える▼丹後は水上さんが故郷に開設した「若州一滴文庫」にも近い。生誕100年を機に丹後や若狭に残るゆかりの場所をたどり、その作品の世界を味わいたい。