さいとう・れいこ 1966年生まれ。アイヌ・北方先住民文化研究。北海道立北方民族博物館学芸員を経て現職。共編著に「極北と森林の記憶 イヌイットと北西海岸インディアンの版画」。

 博物館の常設展示は、頻繁に展示替えをしないため、歴史的評価の定まった資料を選ぶ。見解が分かれるものを避けたり、保留したりする傾向があったことは否めない。1970年代ごろに開館した博物館の歴史展示は、太平洋戦争までを区切りとし、90年代以降に開館またはリニューアルした博物館では、「現代」を高度経済成長期あたりまでと定めている館が多いのではないか。

 国立民族学博物館(民博、みんぱく)は77年に開館し、「アイヌの文化」展示は79年に一般公開された。アイヌ民族とその文化が今ほど認知されていない時代に、日本の一部でも北アジアの一部でもなく独立して取り上げたことは画期的だった。

 しかし、本州以南の文化とは異なるアイヌ文化の独自性を示すため、「伝統的」な衣食住、生業、精神世界を見せる展示で、当時のアイヌ民族の暮らしなどを紹介するものではなかった。世界的にも「現代」の民族文化を展示する動きが、始まっていなかったころである。

 民博では開館30周年を機に、常設展を見直した。「世界の人びとがさまざまなかたちで結びつきながら同時代を生きる姿をつたえ、利用者もともに考えることを促す」展示を目指してリニューアルし、約10年をかけて2017年に完了した。

 一方、特別展や企画展では、常設展を補完するような横断的なテーマを扱ったり、新しい見解を示すなど実験的な展示もしやすい。特別展「先住民の宝」(12月15日まで)は、各地の先住民が大切にしてきた有形・無形のものをとおし、多様な価値観に触れてほしいとの趣旨である。

 もうひとつ知っていただきたいのは、先住民とは何かである。定義は単純ではないが、その土地に暮らすようになった順番や古さではなく、現在の国家が植民的支配をする以前からその土地に住んできた民族集団で、社会的に劣勢な状況におかれてきた人びとのことである。

 先住民は独自に存在するのではなく、対する植民者・支配的民族がいる。さて、自分とは関係ない遠い存在だろうか。

 アイヌ民族コーナーでは、人気漫画『ゴールデンカムイ』の原画とともに、作品にも登場する民具を展示した。漫画の舞台は、日露戦争後の北海道と樺太。およそ100年前の暮らしのなかで、民具を使う場面がいきいきと描かれる。漫画からアイヌ文化に関心をもった新たな来館者層に、実物の色・大きさ・質感などを見てもらうことを期待している。

 もちろん、伝統文化ばかりではなく、アイヌ民族を取り巻く近年の動向と新しい資料や作品も満載である。(国立民族学博物館准教授)