菅義偉政権が目玉施策として不妊治療の支援拡大に向けて動きだしている。

 高額とされる不妊治療にかかる費用などの実態調査を今月にも始める。現在の助成制度の拡充を手始めに、菅氏が掲げた「保険適用の拡大」を目指す考えだ。

 晩婚化などの影響で、不妊に悩む夫婦は増えている。治療に伴う重い負担を減らすことは、当事者にとって心強い後押しとなるだろう。

 政府は、少子化対策の柱として推進に前のめりだ。

 子どもをもうけるかどうかは、個人の判断であることをおさえておきたい。

 その上で、希望する人が安心して治療を受けられる制度や環境をどう整えるか。医学的な見地と社会的な理解に基づき、丁寧な議論と合意形成を図っていく必要があろう。

 日本産科婦人科学会によると、不妊治療の体外受精により2018年に誕生した子どもは5万6979人。全体の治療件数は45万件を超え、ともに過去最多を更新して広がっている。

 だが、現在は治療の大部分で公的医療保険が使えない。適用対象は不妊の原因検査や排卵誘発剤を使う治療など、初期段階の一部に限られる。

 効果がない場合、高度な体外受精や顕微授精に進むが、これらは保険適用外の自由診療で、全額が自己負担となる。

 1回当たり数十万円とされ、総額500万円以上かかる人も少なくないという。国や自治体が設けている負担軽減策の拡充に期待が高いのも理解できる。

 政府は、体外受精と顕微授精への助成制度を巡り、来年4月から初回額30万円を10万円超引き上げ、最大6回の助成回数も緩和を検討している。治療開始時の年齢など対象条件のうち、夫婦で730万円未満とする所得制限は撤廃する方向という。

 助成対象者の広がりや負担の実態、使い勝手を検証し、柔軟に見直していくべきだろう。

 その先に政権が見据えるのが不妊治療への保険適用拡大で、早ければ22年度の実施に向けて検討を急ぐ構えだ。

 ただ、実現には課題も多い。

 公的医療保険は国民の保険料や税金を主な財源としている。厚生労働省はこれまで、適用は病気に対して効果が見られる治療を対象にすべきという慎重姿勢を取ってきた。そもそも不妊は病気なのかどうかという意見も根強い。

 医療現場などからも熟考を求める声が出ている。保険適用の内容次第では、それぞれの患者に合った治療法を行う自由度が損なわれる-との心配からだ。医療サービス価格が低く抑えられた場合、治療の質の低下につながりかねないとの懸念もある。

 患者の支援団体は、不妊治療の経済的な負担軽減だけでなく、仕事と治療を両立できる環境づくりや医療機関の技術格差をなくすガイドラインなど、包括的な制度設計や法整備が必要だと訴えている。

 首相肝いりでもトップダウンによる拙速は避け、治療の当事者らの声に寄り添うべきだ。