熊本県松橋(まつばせ)町(現宇城市)で1985年に男性が刺殺された松橋事件で、殺人罪などに問われ服役した宮田浩喜さん(85)の再審初公判が熊本地裁で即日結審した。

 検察側は殺人罪を求刑せず、宮田さんは来月の判決で無罪となる見通しになった。

 再審請求から約7年、熊本地裁の再審開始決定から約2年8カ月が経過している。「疑わしい場合は被告人の利益に」の原則に従い、再審を迅速にする制度改革が必要ではないか。

 宮田さんを有罪とした唯一の証拠は「凶器の小刀に血が付くのを防ごうとシャツの袖を柄に巻き、犯行後にシャツを燃やした」という自白だった。

 しかし97年、弁護団の求めで検察が開示した証拠の中にはシャツの袖があり、血痕も付いていなかった。

 問題は、それでも再審がすぐに始められなかったところにある。弁護団が他の証拠も集めて再審請求したのが2012年。熊本地裁が再審開始決定を出したのは16年6月だった。

 検察は高裁、最高裁に抗告を繰り返し、再審開始が確定したのは昨年10月である。この間、検察は新しい証拠を示すことができなかったにもかかわらず、だ。

 それどころか、検察は再審公判でも改めて自白調書を証拠として申請し却下された。抗告を繰り返したのは、再審の引き延ばしが目的だったと受けとめられても仕方がない。

 米国や英国の刑事裁判では無罪判決に対する検察の上訴は認められていない。強大な検察権力は常に抑制的であるべきとの考えに基づくという。

 日本でも、再審開始決定に対する検察の異議申し立てについて議論が必要ではないか。再審法廷での証拠の開示も検討すべきだ。

 昨年、滋賀県の日野町事件(1984年)と湖東病院事件(2003年)で、裁判所が再審を認める決定を出した。いずれも再審請求審の裁判官が捜査機関側に証拠開示を強く促した結果、自白の信用性を覆す証拠があることが浮かびあがった。

 警察・検察による証拠の独占と恣意(しい)的な運用がえん罪を生む要因になっていることが改めて印象付けられた。

 宮田さんは現在、認知症を患い介護施設で暮らす。担当弁護士は「宮田さんは事件で人生の後半すべてを奪われた」と話す。警察、検察、裁判所はこの訴えを受けとめ、名誉回復を急ぐべきだ。