住民は生きた心地もなかろう。北極海に囲まれたロシア北部の島の集落で50頭を超えるホッキョクグマが住宅地を歩き回っている。地元当局は非常事態を宣言した▼残飯をあさったり人を付け回したりする映像が報じられている。だが、国際自然保護連合のレッドリストで危急種とされており、銃で撃退というわけにもいかない。当面は打つ手がない▼ホッキョクグマは海氷上でアザラシなどを捕食する。近年の地球温暖化で海氷面積が激減し、陸上で過ごす時間が増えているとの指摘もある。住宅地での出没にも理由がありそうだ▼地球上で最も温暖化の影響を受けやすい北極海では、今世紀に入って夏場の気温が2度近く上昇した。2030年代末には海氷が消滅するとの予測もある。ホッキョクグマに絶滅の危機が忍び寄る▼温暖化防止に向けたパリ協定では産業革命前からの気温上昇を1・5~2度未満に抑える目標を掲げるが、実現は困難との見方が根強い。その協定から、世界最大の温室効果ガス排出国の米国は離脱を表明している▼トランプ米大統領も先週、非常事態宣言を出したが、国境の壁建設に関してだった。猛獣の徘徊(はいかい)や地球的規模で進む環境破壊に比べ切迫感に乏しい。大国のリーダーが危機に背を向ける現実こそ、非常事態ではないか。