日本学術会議が推薦した新会員候補6人が任命されなかった問題が波紋を広げている。

 菅義偉首相は「任命する責任は首相にある。推薦された人をそのまま任命してきた前例を踏襲していいのかを考えた」と述べたが、任命しなかった理由については明確な説明をしていない。

 日本学術会議法では、会員は同会議の推薦に基づいて首相が任命するとされている。法で規定された推薦の一部を拒否する以上は、その根拠を示す必要があろう。

 理由を語らないままでは、政権が意に沿わない研究者を排除したとの疑念が拭えないままになる。

 そもそも、会員の任命に関しては、1983年に中曽根康弘首相(当時)が「政府が行うのは形式的任命にすぎない」と国会答弁。参院文教委員会の付帯決議でも、首相が会員を任命する際は「同会議の推薦に基づくという法の趣旨を踏まえて行う」としている。

 だが、安倍晋三政権になって以降、人事に事前関与していたことが明らかになっている。2016年の補充人事の際には選考初期段階で候補者の任命に難色を示し、交代会員を決める17年には定員より多い名簿の提出を求め、同会議側と調整したという。

 推薦の仕組みを形骸化させ、政権側が部分的に会員を「選別」していたといえる。

 18年には「首相に推薦通り任命すべき義務があるとまではいえない」とする見解を作成していた。

 過去の政府答弁ばかりか委員会の付帯決議すら、行政府の一存で否定したことになる。国会をあまりに軽んじていないか。

 学術会議法の解釈を変えたようにもみえる。開かれた場で理由を説明することが強く求められる。

 菅政権が継承したとする安倍政権は、集団的自衛権の行使容認や検察官の定年延長問題で、憲法や法律の解釈を強引に変えたとして批判を浴びた。

 十分な議論もなく法解釈を「上書き」するやり方は、今回の任命問題とも共通する。こうした姿勢まで継承することは許されない。

 7、8日には衆参の内閣委員会閉会中審査がある。菅首相も出席し、説明を尽くすべきだ。

 研究者だけでなく、文化人や人権団体、法曹界からも、今回の問題を懸念する声が上がっている。

 政権の強引な手法がまかり通れば、学問ばかりか表現や言論活動への規制が強まりかねないとの心配があるためだ。菅首相はこうした声にも応えなくてはならない。