「黒塚」を踊る猿之助(撮影・桂秀也)

「黒塚」を踊る猿之助(撮影・桂秀也)

 ドラマ「半沢直樹」で強烈な敵役を演じた市川猿之助(44)は、京都芸術大・春秋座(京都市左京区)の芸術監督でもある。芸術監督プログラムと銘打つ「市川猿之助 藤間勘十郎 花形舞踊公演」を今月3~4日、同劇場で開いた。日本舞踊界をけん引する藤間勘十郎(40)とコンビを組んだ舞台。秋にちなみ、月が浮かぶ4演目をそろえた。


 歌舞伎役者が多く出演したテレビの「半沢―」では、大仰と言える顔芸やセリフ回しが話題を呼んだ。一方、今公演では、対照的に抑制した魅力も披露。セリフはほぼなくても、たたずまいや身ぶり、視線の一つ一つから人物の境遇や情感が細やかに伝わってきた。芸の幅を改めて実感する。


 猿之助は家の芸『黒塚』から、月明かりのもと、老女が自身の影法師と無心に戯れる名場面を「月の巻より」と題し踊った。


 犯した罪を悔いていた老女が、ススキの原の中、澄んだ心で月光を浴びる。月の優しい光は、過ぎ去った時への思いを呼び起こすのか。童心に返って童唄(わらべうた)を踊り始める。腰の曲がった老女でも、影法師は無垢(むく)な幼女が弾むように見える面白さ。その奥にある悲しさ、無常観までにじむ。


 猿之助は、本衣装は着けずに紋付き袴(はかま)の素踊り。それでも老女に見えるのが芸の力。宮川町の三味線の名手、今藤美佐緒が特別出演し、長唄に彩りを加えた。


 勘十郎も老女ものの『檜垣(ひがき)』を出した。深草少将(猿之助)と小野小町(中村鷹之資(たかのすけ))の色模様中、少将を恋慕い死んだ老女(勘十郎)が現れる。美貌をうぬぼれていた老女が水鏡に写る自らの老醜に気付き、嫉妬に狂う。勘十郎は、妖気をためた序盤から一転、生々しい情念をあらわにした。


 『黒塚』も『檜垣』も能を基にし、抑制した美しさが感じられた。一方、最後の『悪太郎(あくたろう)』は狂言が題材。悪太郎(猿之助)が酔って長刀を振り回すなど、とぼけた笑いを誘った。修行者(勘十郎)らとの連れ舞いは幸せ感にあふれた。