10月5日 読み聞かせ
 「読み聞かせ」という言葉は誰が言い出したのか。上から目線、押しつけがましい感じでいまだなじめない用語ですが、子どもと過ごす時間の中で貴重かつ楽しいもの。彼らの集中力、好奇心の高さをうらやましく思う。絵の持つ圧倒的な力にも感動する。お気に入りほど繰り返しとなるため、読む側の朗読技術もどんどんアップしている(はず)。無理に聞かせなくても面白ければ自然と聞きます。試されるのは常に作者と読み手。

10月6日 おばけにおなり
 マイルドテイスト、予定調和、教育的なお話が多い中、読んだ親が退屈せず気持ちよくなれる絵本。それが、せなけいこ作品です。ロングセラー「ねないこだれだ」のラストなんてこうですよ。「よなかにあそぶこはおばけにおなり おばけのせかいへとんでいけ おばけになってとんでいけ」。容赦ない。おばけに連れて行かれるよ、ではなく、おなり。救いの手のない設定が多数。わがままな子にたまには投げたい剛速球です。

10月7日 はじめてのおつかい
 テレビの「はじめてのおつかい」のもとはこれでしょう。1977年刊、筒井頼子作・林明子絵による人気作品。昔、娘に近所の八百屋さんに初めて行かせたとき、私の方がどきどきし後をつけるというダメ父でしたが、この絵本の母はただ待つ。林明子の絵の俯瞰(ふかん)、仰角、アップといった達者な表現、観察力は優れたドラマ、いやドキュメントのよう。豊かになりつつあった日本、バブル以前の昭和の夢ある暮らしがうかがえます。

10月8日 原っぱ
 まちの自由な原っぱは減る一途で、たとえ空き地ができても立ち入り禁止で寂しい。と思ううちに数十年たち、今は子どもが減る一方だ。原っぱのにぎわいこそは豊かな暮らしの証左だと思うのです。絵本「はらっぱ 戦争・大空襲・戦後…いま」は1934年から41年、45年、53年…と、東京の原っぱの光景を俯瞰(ふかん)、定点で追った作品。ラストの子どもであふれ返る絵、「こんなふうになるといいなあ」という文言が胸に響く。

10月9日 11匹いる!
 食卓にコロッケが並ぶと、思うのは「11ぴきのねことあほうどり」。娘が「きょうもコロッケ、あすもコロッケ」とため息交じりで言えば、息子が「とりのまるやきがたべたいねえ」と返し、やや感じ悪い。コロッケ店のネコたちがアホウドリを食べに行く話。とぼけたタッチは作者・馬場のぼるの人柄か(彼は親友・手塚治虫の漫画にも登場する重要キャラでもある)。シリーズのほぼどのページも、数えると確かに11ぴきいます!

10月10日 科学絵本のおかげで
 「科学絵本を知識としてではなく、感動としてお子さんに伝えたい」と書くのは甲斐信枝さん。「きゃべつばたけの ぴょこり」「ちいさな かえるくん」「あしながばち」…彼女の多くの絵本のおかげで野の怖いものが減り、いとおしくなりました。京都市在住。嵯峨野で自然を(ときに、はいつくばって)観察する彼女を捉えた数年前のテレビ番組の記憶は新しい。「嵯峨野の春は、自然の創造した優麗な一大風物絵巻」とのことです。

10月11日 ずいぶんいいね
 かこさとし作品は何て温かなんだろう! どれを読んでもそう思うのです。例えば「だるまちゃんとてんぐちゃん」。だるまちゃんのために家族が用意してくれる、てんぐ風うちわや帽子、履物、鼻。それらを見た、てんぐちゃんの「ずいぶんいいもの見つけたね」。この言葉の優しさよ。苦しい戦後の暮らしの中、工夫し助け合い認め合い、笑い合おう。こんな子ども、大人でいてほしいという真っすぐな祈りがここに。

 

~カマキリにびびる~

 

<文 澤田康彦 絵・題字 小池アミイゴ>

 縁あって、近所の空き地の草むしりをすることになりました。ぼくと妻、息子の3人で。雨上がり、土が軟らかく、涼しい午前。草むしりなんてものすごく久しぶりです。

 夏を越えて放っておかれた土地にはさまざまな野草が茂り花を咲かせて庭園のよう。植物のりりしさ、生命力を前に、これを刈り取るのはとてもいけない所業のような気さえする。同時に甲斐信枝さんの科学絵本世界だ! とすぐに連想。「雑草のくらし」を子と読んだ後はこの小宇宙がぐっとずっと近くなった。じいっと観察するようになったのです。

 息子は「マダニいない?」「マムシは?」と聞いてくる。最近読んだ図鑑「危険生物」の影響ですが、少しは何かいてほしいふしもある。「ワニがいるよ」とうそを言うと、よっしゃーと喜ぶ。おかしなリアクションだ。本当にいるのはコオロギやバッタなのだけれど、それはそれで満足らしく、ぴょんぴょんとカエルのように追いかけ始めました。

 草むらでざわっと何かが動き、父はびくっ。なんだカマキリか。われながら弱っちくなったものです。昔は周りに田畑も空き地も小川もあって、春夏秋冬、地面と近い所で戯れていたのです。土というものと離れたのは東京に出てから。いわゆるコンクリートジャングルで40年余。有機物に弱くなり、軒に飛び込んできたセミにさえ「ひゃあ」とびびるフヌケになってしまいました。昔はカマキリなんかちぎっちゃう猛者だったのになあ。

 でも、近頃は鴨川、美山、あるいは琵琶湖へと足を運び、家族と探索するうち、往時の感覚が徐々に戻ってきつつあるように思います。子の前ではカッコいい父でありたいし。

 さあ作業開始。最初はおそるおそる、やるほどに慣れて大胆に。雑草と一口に言ってもみんな個性的。エノコログサはすぐ抜ける。種がくっつき厄介なアレチヌスビトハギは根を張って手ごわい。この赤いのはヨウシュヤマゴボウというのか。妻はよく知ってるなあ。洋酒? 洋種だ、と突っ込まれる。植物たちがそれぞれの戦略で生き残るすべを身につけているたくましさ、賢さに舌を巻く。

 3時間頑張って、さっぱり土色の地面となりました。翌日はひどい筋肉痛に見舞われ、弱っちい自分に再びがっかり。

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澤田康彦 さわだ・やすひこ 1957年生まれ。編集者・エッセイスト
小池アミイゴ こいけ・あみいご 1962年生まれ。イラストレーター