日本の辺境には神々が住まう土地が多い。新型コロナウイルスの猛威が和らいだ先月、九州の離島・対馬を旅し思いを新たにした▼50キロ先に韓国を望む北端の集落に社殿のない神社があった。石造りの祭壇がむき出しになっている。天神多久頭魂(たくつたま)神社。古い自然信仰の形を残しているのかもしれない。御神体の山に祈ると自然の精霊と心を通わせた爽快感に満たされた▼「日本の神道が決して日本列島固有のものではなかったということがわかる」。故司馬遼太郎さんは大陸の精神文化が対馬を経て日本に流入した歴史を考察したが、国境で生き抜いた人々を支えた信仰が今も残ることに感じ入った▼神頼み、と言えば古くさい因習のように感じられるだろうが、信仰は人類の誕生以来あらゆる民族にあったとみられ、社会が存続する上で欠かせない役割を果たしてきたと思う▼コロナ禍の今、精神的ストレスに悩む人が増えている。「1人で抱え込まないで」と厚生労働省が相談窓口を紹介している。誰かとつながることが乗り越える力になる。神仏を心に抱くこともつながりの一つかもしれない▼京都は大寺社から辻(つじ)々の祠(ほこら)まで多くの神仏が守り伝えられている。立ち止まり祈りをささげれば、幾多の災害や疫病を乗り越えた人々とも心を通わせられるだろう。