痛みが開く新境地

 悲しげに涙を流す家族にいったい何があったのだろう? 悲劇に襲われたあの画家は、その後どんな絵を描いたのか。
 開館1周年を迎えた福田美術館(京都市右京区)と嵯峨嵐山文華館(同)が共同開催する企画展「悲運の画家たち」は、悲運をキーワードに近世、近代の名品約130点を並べた。
 第1会場「逆境にも負けず」(福田美術館)は悲劇的な画題や、病気や事故などの悲劇に見舞われた画家の作品を取り上げる。

尾竹國観「文姫帰漢」右隻[福田美術館会場]

 尾竹國観「文姫帰漢」は中国の故事が題材。後漢の女性、文姫は南匈奴に連れ去られ、12年後に巍の曹操の計らいで帰国した。胡地で結婚、2児をもうけた文姫にとって、帰国は親しんだ人々との離別だ。涙をこらえる家族が痛々しい。

小林清親「久松町の大火図」[福田美術館会場]

 小林清親「久松町の大火図」は東京・日本橋の火災を描く。清親の家も焼け、この後、描く方向性が変わった。逃げ惑う人は清親自身かもしれない。

速水御舟「デッドシティー(阿蘭陀所見)」[福田美術館会場]

 「デッドシティー」の速水御舟は、列車事故で足を切断した後、義足で渡欧、作品を描いた。悲運を乗り越える精神力と、創作への希求に圧倒される。

山内信一「春光」[嵯峨嵐山文華館会場]前期展示

 第2会場「忘却にも負けず」(嵯峨嵐山文華館)は、今ではあまり日の当たらない画家を紹介する。「春光」を描いた山内(やまのうち)信一は官展審査員も務めた京都の画家だが、没年も不明という。他にも五姓(ごせ)田芳柳、矢野夜潮らの作品が並ぶ。

矢野夜潮「高雄秋景・嵐山春景図屏風」左隻[嵯峨嵐山文華館会場]

 悲運を知ることは画家や描かれた人の人間性に近づくことでもある。痛みが芸術を深め、新境地を開くこともある。背景を知ることでより深く作品が楽しめるだろう。

木村武山「天女散華」[嵯峨嵐山文華館会場]前期展示


【会 期】前期10月24日(土)~11月30日(月)、後期12月2日(水)~2021年1月11日(月・祝)。火曜日と11月4日、12月29日~21年1月1日は休館。11月3日は開館。嵯峨嵐山文華館は11月15、21日も休館
【開場時間】午前10時~午後5時(入館は閉館30分前まで)
第1会場=福田美術館・第2会場=嵯峨嵐山文華館(いずれも京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町)
【入館料】福田美術館=一般・大学生1300(1200)円、高校生700(600)円、小中生400(300)円▽嵯峨嵐山文華館=一般・大学生900(800)円、高校生500(400)円、小中生300(250)円。かっこ内は20人以上の団体料金。2館共通券は一般・大学生2000円、高校生1000円、小中生550円
【主 催】福田美術館、嵯峨嵐山文華館、京都新聞