初めて冷かけうどんを食べたあの日から、僕はいきいきうどんに夢中になった。大学の友だちに、とにかくすごいうどん屋さんがあると教えてまわり、暇さえあれば原付きにまたがって宝ケ池から烏丸御池まで山をくだった。冬はかけうどん、それ以外の季節は冷かけうどんを食べた。

 大学を卒業して室町中立売に引っ越した。不動産屋さんで住所を聞いた時、中立売通には全然ぴんとこなかったけど、室町通と聞いてすぐに、いきいきうどんがある通りだ、と声に出してしまいそうになった。

 僕は他の物件もろくに見ずにその部屋に住むことに決めた。その部屋から自転車に乗って室町通を下がると、5分もせずにそこにつくことができる。カウンターのテレビが見える席。スポーツ新聞と最新号のLeaf。たっぷりのごまと生姜(しょうが)とねぎとひとすくいの天かす。そこにしかない味とそこにしかない時間が確かにあったのだ。

 京都に住んでいる何人かの友達から、いきいきうどんなくなるって、と連絡が来た。きっとみんなもそうやって何気ない時間をあの場所で過ごしたのだろうな、と少し嬉(うれ)しくなる。ありがと、寂しいねーと返事を打ちながら、うっすらと鼻の奥にあの出汁(だし)の匂いがした。