重要文化財 維摩居士像 伝李公麟筆 京都国立博物館蔵

<ミュージアムのちから コロナ禍に考える>

 日本の文化財は傷みやすい。紙や絹に描かれた絵や書を長く保存するため、裏に紙を貼って補強し、周囲を裂(きれ)で飾って掛け軸に仕立てる。だが、歳月による劣化は止められない。折れじわや温度、湿度の変化も傷みの原因になる。100年に1度は修理が必要になり、そのための知識や技術が蓄積されてきた。

 京都国立博物館(京都市東山区)には文化財保存修理所がある。「所蔵者と修理業者をつなぐ要の存在」と保存修理指導室長の大原嘉豊さんは解説する。優れた民間の工房が修理を行う場所を無償で提供し、修理寄託という制度を活用する。修理が必要な文化財を同館が所蔵者から預かって工房に「また貸し」する。預かり期間中は同館が責任を持ち、調査・研究を行う。

当麻寺練供養図 藤吉・藤三筆 京都・西寿寺蔵

 修理の工程では研究者の目が不可欠だ。現代ではオリジナル部分は残し、過去の修復で加えられた部分を取り去るのが原則だ。だが、その判断は容易ではない。欠けた仏の顔を修復して描いた仏画から、顔を取り去ってもいいのか。表装に名物裂など美しい裂を用いた場合、それを含めて鑑賞対象となっていることもある。当時の修復技術や価値観を伝えるならば、残したほうがよい場合もある。その判断を研究者が行う。

 修復の必要性や意義を伝えるのも研究者の役割だ。「修復技術はこの40年でめざましく進歩した」と大原さんは言う。かつては文化財を傷める危険もあったが、現在は安全かつ丁寧に直すことが可能だ。ただし、時間もコストもかかる。丁寧な修復の必要性を、所蔵者らに理解してもらわなければならない。

 文化財保護法では、文化財は私有財産権の制約下にあり、所蔵者が修復し、少なからぬ額を負担することになる。所蔵者の多くは寺社であり、檀家(だんか)や地域の協力が欠かせない。協力して資金を集め次世代に残してきた。その記憶とともに、文化財の価値も伝えられてきた。

 だが、文化財保護法ができた当時に比べ、寺社や地域がすべてを担うことは難しくなっている。それに代わるシステムが必要とされている。文化財の価値とともに、所蔵者や修理現場の声を伝え、どう守るかの議論を起こす。それが博物館の役割だと大原さんは話す。

 

 京都国立博物館 修復時、表装に使った染織品は取り換えられることが多いが、館蔵の「維摩居士像」(伝李公麟筆、重要文化財)では可能な限り元の裂を残した。作品が伝来したのは福岡藩主の黒田家で、金襴を使った豪華な表装を見ることができる。京都・西寿寺所蔵の「当麻寺練供養図」では、修復時に願文や念仏札などが発見された。12月19日からの特別企画「文化財修理の最先端」で新発見を伴う修復成果を紹介する。京都市東山区茶屋町。075(525)2473(テレホンサービス)。