10月19日 明日があるさ
 坂本九の「明日があるさ」は1963年、槇みちるの「若いってすばらしい」は66年。戦争中は明日がなく、若いことが苦難でしかなかったのですが、手のひら返しのように60年代は青春賛歌が生まれ、明るい未来が歌われました。若さに至上の価値(=市場の価値)が見いだされ、それはそのまま現在に至る。老人を忘れるなよとも言いたいけれど、でも若いって確かにすばらしい。若者には「涙くんさよなら」でい続けてほしい。

10月20日 青春記
 青春記と名のつくエッセー、マイベスト3は北杜夫「どくとるマンボウ…」、東海林さだお「ショージ君の…」、畑正憲「ムツゴロウの…」です。いずれも30代後半~40代、人気の才人たちが名を成した後、自身を振り返りつづった真っすぐな作品。戦後の混乱期から貧しかった昭和中期にかけ、苦しく切なく七転八倒する若者の姿がユーモアと含羞(がんしゅう)にまぶされ浮かび上がる。齢(よわい)を重ねた今、私には語るに足る青春があるかと自問する。

10月21日 京都の四畳半
 四畳半=下宿ものというと、昔なら松本零士の漫画「男おいどん」や井上ひさしの小説「モッキンポット師の後始末」、現代なら森見登美彦の京都が舞台の青春小説群でしょう。デビュー作「太陽の塔」は日本ファンタジーノベル大賞受賞。四畳半に大宇宙が広がっていることが証明された。比叡山のふもとに下宿、夕刻にカップルが並ぶ「鴨川等間隔の法則」にぶぜん。「男汁」あふれる主人公。切なさとおかしさ満載の傑作です。

10月22日 恋の短歌
 「青春は生におけるひとつの非常事態」と歌人・穂村弘。非常事態の最たるものが恋です。若者はただ慌てふためく。百人一首には43の恋の歌があるとか。短歌は俳句より14文字多く、感情が込められる詩形。恋の瞬間に生まれた歌には永遠の輝き、香りがある。「たとへば君 ガサッと落ち葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか」(河野裕子)。「君に逢(あ)う以前のぼくに遭いたくて海へのバスに揺られていたり」(永田和宏)

10月23日 戦時下の青春
 戦争末期、特攻に向かう海軍航空兵と見送る女性の淡い恋。乏しい食材で丹念に作られたおはぎを味わう青年の正座の姿が忘れられません。映画「紙屋悦子の青春」は戦争レクイエム作品群で有名な黒木和雄監督の遺作。戦時下にも恋があることは当然。舞台は1軒の普通の家で、そこに戦争という暴力が襲いかかり、かけがえのない青春を踏みにじる。そんな非情、無念があの時代いくつあったろう。最ももらい泣きした1本です。

10月24日 学園ドラマ
 1965年の本日、テレビで「青春とはなんだ」が始まる。もう55年も前か。高校の部活が舞台の学園ものは本作から。大空に届くような布施明の主題歌「若い明日」「これが青春だ」は今聴いても爽やかです。岡田可愛や松本めぐみ…お姉さまたちも実にまぶしく、小学生には高校生が大人に見えたもの。ラグビーやサッカーボールを追う熱血男子、私の思い描く青春イメージの原点はここかも。私はバドミントン部でしたけれど。

10月25日 青春の2文字に
 昨日触れた学園ドラマは連綿と続き、日曜午後8時にはテレビの前に必ずいました。「青春とはなんだ」の夏木陽介に続くのは、「でっかい青春」の竜雷太、「進め!青春」の浜畑賢吉、「飛び出せ!青春」の村野武範、「われら青春!」の中村雅俊等々。青春の2文字に元気な形容句と「!」マークがセット、これぞ1960~70年代の日本の活力の形。もうこんな題はありえぬ今。時代が進んだのか、ただ老いたのか?

 

~今思えば…~

 

<文 澤田康彦 絵・題字 小池アミイゴ>

 あれは高校3年生だったから1975年。11月の初めに東京の私大の下見に行きました。今思えばキャンパスを見に行ったところで何が分かるわけでもないのですが。

 現代の高校生と違い、遠出の習慣も、ホテル経験もない田舎育ちの18歳。ひと昔前の舟木一夫の歌「高校三年生」くらいのウブさ加減だったことでしょう。公務員の父のつてで青山の宿泊施設に2泊し、複数の大学を地下鉄路線図片手にきょろきょろ回りました。

 雑誌やテレビ、ラジオ、小説…東京への憧れだけでできた頭でっかち。今思えば送り出す両親にとって、この次男坊、実に心もとなかったろうなあ。夫婦でやっとためたなけなしのお金を、息子ののんきな東京ライフプランのために吐き出さねばならぬ、その複雑な心境は想像するに余りあります。もっともあのときには体育祭の応援団や文化祭の演劇、そして女の子にうつつを抜かしていそうなわが子が大学に受かるなんて思ってもいなかった、浪人させて地元の大学に入れ、教職でも取らせたかったんや、と母は述懐する。

 忘れもしない11月3日。志望校の一つ、慶応大では三田祭が開かれていました。文化祭は中高のそれしか知らない青年の前に広がる華やかな景色。にぎわう模擬店。おしゃれな慶大生たち。先日の1面コラムで小学生には高校生が大人に見えたなんて書きましたが、高校生にも大学生は大人に見えた。

 人混みに押されるままチケットを買って入った体育館で、荒井由実のライブが始まった。「あの日にかえりたい」がヒットし、人気急上昇中の彼女は「ひこうき雲」を2回歌ってくれ、ぼくはその場にとろけそうになりました。「東京に来るぞ!」と改めて誓わせた時間でした。今思えば東京に行くとユーミンに会えるというわけもないのだけど。ただ少なくとも三田祭とユーミンが残りわずかの日々を受験勉強へと向かわせた原動力になり、別の青春へと導いたことは確かです。

 結局第一志望の別の大学に奇跡的に受かり、両親の予想、希望に反して、翌年から東京の大学生となりました。でもそれは決して想像していた明るい青春でもなかったなあ、6年も行く羽目になってしもたしなあ…と、まあそんな話はまた別の機会に。

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澤田康彦 さわだ・やすひこ 1957年生まれ。編集者・エッセイスト
小池アミイゴ こいけ・あみいご 1962年生まれ。イラストレーター