本庶佑さん

本庶佑さん

 日本学術会議が推薦した新会員候補6人を菅義偉首相が任命しなかった問題は、政治と学問の緊張関係を顕在化させた。専門的な知見を積み重ねてきたアカデミアはどうあるべきなのか。2018年にノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑・京都大特別教授に聞いた。

 -日本学術会議の推薦した会員候補を菅首相が任命しなかった問題をどう受け止めたか。

 「驚いた。理由を説明せずに何らかの権力を行使するのは一番よくない。今回の決定をするに当たって、菅首相の周辺で深く議論したのか不明だ。事の重大性をどこまで考えていたのかよく分からない。一方であえてポジティブに捉えれば、科学者の意見を日本政府に反映させるチャンネルが欠落していることを国民が知った意義はある」

 -具体的にはどんなチャンネルがなかったのか。

 「学術会議の使命である『政府に科学的見地から政策へ意見を述べる』ことが、うまく機能していなかった。10年以上にわたって、政府からの諮問がないため答申もなかった。簡単に言うと、政府からあまり相手にされてこなかった。たとえば今回の新型コロナウイルスの感染拡大においても、政府に助言する専門家の位置付けがよく分からず、百家争鳴の状態になった。未知の部分が多いウイルスではあるが、学術会議が機能していればもっと適切な助言を科学者コミュニティーとしてできた可能性はある」

 -年間予算として10億円を投じていることにも議論が出ている。

 「知的コストを矮小(わいしょう)化しすぎだ。事務職員の人件費や経費を除けば、学者の知的作業を非常に少なくみなしているのが現状ではないか。日本政府、ひいては国民が学問の価値を低くみていることが背景にあると思う」

 -今回、任命拒否された6人は安保法制反対など、政府の意向に沿わない立場だったと言われている。学問の自律性を脅かすことが懸念される。

 「任命拒否の理由が明らかでないので、背景を詮索することにあまり意味はない。ただ科学者コミュニティーが自律性を持ち、政府に意見を伝えることは重要だ。科学者のオピニオンリーダーに誰を入れるかについては、政府は判断できないはずで専門家に委ねるべきだ。その上で科学者からの意見を採用するかは政府の判断。そこに政府の責任が生じる」