愛染明王坐像(聖衆来迎寺蔵 鎌倉時代)

愛染明王坐像(聖衆来迎寺蔵 鎌倉時代)

男神坐像(重要文化財 地主神社蔵 平安時代)

男神坐像(重要文化財 地主神社蔵 平安時代)

 比叡山の麓、琵琶湖近くの比叡辻に、聖衆来迎(しょうじゅらいこう)寺があります。伝教大師最澄が建立し、恵心僧都(そうず)源信が念仏の道場として再興したこの寺は、多数の仏教美術が伝来することで著名で「近江の正倉院」とも呼ばれています。

 今回初出陳の愛染(あいぜん)明王像は、小像ながらもはつらつとした作風です。真っ赤な肉身で焰髪(えんぱつ)を逆立てし、目をかっと見開き、開口して牙や舌を見せる相貌は、煩悩を打ち砕く明王にふさわしいお顔です。一方、張りのある丸顔で童顔に表されており、それほど怖さを感じさせません。むしろかわいらしさも見え隠れし、とぼけた表情の獅子冠とともに本像の魅力となっています。

 比叡山の北方にそびえる比良山の西麓に、天台回峰行の聖地、葛川があります。ここには相応和尚(かしょう)が不動明王の霊験を感じて建立した明王院があり、その隣には地主神社が鎮座し、平安時代の神像が伝わっています。そのうちの一体は、なんと正面を向いていません。頭部だけ斜め右を結構な角度で向いているのです。この像を見るたびに、「きっと隣の神さんと雑談しているに違いない」と妄想してしまいます。口もやや開いているように見えます。体はほとんど表さず素っ気ないのですが、顔を右に向けるだけでいろいろなことを想像させるなんて、すごい表現力ですね。(大津市歴史博物館学芸員 寺島典人)

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 大津市内の10社寺でつくる湖信会設立60周年、日本遺産登録を記念した大津市歴史博物館の企画展「神仏のかたち-湖都大津の仏像と神像」(同館、びわ湖大津観光協会、湖信会、京都新聞など主催)に合わせて、大津の仏教文化を同館学芸員に紹介してもらいます。

 湖信会の10社寺は、浮御堂(満月寺)、西教寺、延暦寺、日吉大社、近江神宮、三井寺(園城寺)、石山寺、建部大社、岩間寺(正法寺)、立木観音(安養寺)です。

 ■企画展「神仏のかたち-湖都大津の仏像と神像」は11月25日まで、大津市歴史博物館(同市御陵町)で開催。月曜休館。有料。