臨時国会が開会し、菅義偉首相が初の所信表明演説を行った。

 「国民のために働く内閣」を掲げ、行政の縦割りや既得権益、あしき前例主義を打破して規制改革を全力で進めると決意を述べた。

 首相として政権の目指す重点政策や基本姿勢を、まず国会の場で指し示すのが所信表明演説である。

 新政権の発足から1カ月以上過ぎての表明は、あまりに遅いと言わざるをえない。

 菅氏は、就任直後からデジタル庁創設など肝いり政策に矢継ぎ早に着手し、実績づくりを急いだ。

 所信表明でも、不妊治療への保険適用や携帯電話料金の引き下げなど身近な改革項目を列挙した上で、「成果を実感していただく」と結果重視の姿勢を示した。

 だが、継承するとしたアベノミクスを含め、安倍晋三前政権の内外政の行き詰まりをどう打開し、「国難」と呼ぶ新型コロナウイルス禍を乗り越える社会の在り方を描くかははっきりしない。国民への説明を軽んじる態度まで引き継ぐことは許されない。

 最たるものが、日本学術会議会員の任命拒否問題だ。所信表明で一言も触れなかった。

 これまで菅氏は6人の任命を拒否した判断を「総合的、俯瞰(ふかん)的」と繰り返すのみだ。学問の自由を脅かすとの批判に耳を貸さず、自らの判断理由を語りすらしないのは独善的と言われても仕方ない。

 国会論戦を通じ、首相としての説明責任が強く求められよう。

 行政や社会のデジタル化に加え、所信演説の目玉としたのが温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロとする目標表明だ。

 温暖化対応を経済成長につなげるという「発想の転換」は一歩前進だが、達成には排出量の多い石炭火力発電の廃止をはじめ従来政策の抜本的見直しが不可欠だ。

 最大課題のコロナ対応と経済回復では需要喚起策「Go To キャンペーン」、地方振興では「ふるさと納税」と、自身で力を入れた「菅カラー」政策のPRに時間を割いた。

 一方、懸念される感染再燃に備えた医療体制拡充、雇用・事業継続への支援策は新味に乏しい。社会保障改革を巡る国民負担増でも踏み込んだ言及を避け、国民に厳しい内容への理解を得る姿勢を欠いているのではないか。

 「不得手」とされる外交政策は前政権の踏襲が目立った。米中対立が激化する中、多国間主義を擁護して存在感を高める視野の広い政策議論が求められる。