関東大震災後、皇太子(後の昭和天皇)暗殺を計画したとする大逆罪で、朝鮮人の朴烈と日本人の恋人金子文子が死刑判決を受けた。この事件を基に瀬戸内寂聴さんが47年前に刊行した小説「余白の春」が岩波現代文庫で復刊された▼震災では多くの在日朝鮮人が日本人の手で虐殺された。2人の連行は「保護」が名目だったが実際は反政府活動の弾圧で、起訴事実が次々追加された▼暗殺計画も現実的ではなかったが2人は積極的に認め、死へ突き進んだ。天皇の恩赦で無期懲役に減刑。文子は獄中で自殺した。寂聴さんは「死刑は文子の魂の生であった」「無期刑の生は魂の死であった」とした▼執筆時に寂聴さんは日韓の関係地を訪れ証言を集めた。両親に見捨てられ悲惨な幼少期を過ごした文子だが、女性が経済的に自立することが困難だった時代に社会と立ち向かい、内面を育んでいく▼今、韓国映画「金子文子と朴烈」(2017年製作)が京都シネマで公開中だ。信念を貫いた若い2人の生き方を、日本人の差別や暴力に対する強い怒りを背景に描く▼徴用工問題などを機に、日韓関係が悪化している。複雑な感情のもつれを解きほぐすには、日本人が過去のものとしている問題を韓国人が今もリアルに感じている現実を知ることが重要ではないか。