大津市がいじめの早期発見のため、導入している無料通信アプリ「LINE」の相談(画面はサンプル)

大津市がいじめの早期発見のため、導入している無料通信アプリ「LINE」の相談(画面はサンプル)

 「友だちが集まって、私の悪口を言っている気がします」「体形のことでよくからかわれるんです」

 大津市が中学生対象に2017年11月に始めたLINE(ライン)によるいじめ相談。対応するのは心理カウンセラーらで、生徒の気持ちを整理したり、保護者や教員などへの相談を促したりと、多い時で何十回も言葉の往復が続く。

 現在の登録者は361人、本年度の相談回数は1月中旬までで389回といずれも増加傾向にある。市いじめ対策推進室は「スマートフォンを持つ生徒が半数を超える中、手軽に相談できる手段の一つとして有効だ。いじめの早い段階からつながりをつくり、深刻化を防ぎたい」と話す。

 同市の中学2年男子生徒が11年に自殺した事件で、いじめとの因果関係を認定した市の第三者調査委員会は、教員間の情報共有不足や市教育委員会の学校任せの体制などを指摘した。反省を踏まえ、市と市教委はいじめ対策に取り組んできた。LINE相談はその一環だ。他にも学校と市教委の連絡体制の強化や小中学校へのいじめ対策担当教員の配置、電話相談窓口の設置を行った。

 同市の小中学校におけるいじめ疑いの認知件数は昨年度2531件。12年度比で6倍に増えた。市教委は「いじめ自体が増えたのではなく、事案をキャッチする教育現場や関係者の意識が高まった。取り組みの成果が出てきた」とする。

 本年度はインターネット上のいじめの対処法をまとめた教員向けマニュアルの策定を進めており、新年度にはAI(人工知能)でいじめの重大化を予測する仕組みづくりを始める。

 対策が進む一方、教育現場の実態との矛盾を指摘する声もある。同市内の中学校の40代男性教諭は「いじめの対応で業務量が増え、生徒に丁寧に向き合う時間が減っている」と懸念し、「いじめ対策に取り組むにはもっと人手が必要」と指摘する。

 「いじめ防止対策推進法が13年に施行され、息子に起こったような事件がなくなるものと安易に考えていたが、同じことが繰り返されている」。男子生徒の7回目の命日である昨年10月11日、大津市役所での記者会見で、生徒の父親は法の実効性に疑問を呈した。同市では心身に重いダメージを受ける「重大事態」は14~17年度に毎年1件以上発生。全国でもいじめが原因で命を絶つ子どもがいまだ相次ぐ。

 父親と越直美市長は昨年11月、文部科学相と超党派国会議員勉強会に要望書を提出。同法に「いじめの防止は学校が最優先で対応すべき業務」と明記することやいじめ対策教員の専任配置を求めた。父親は「学校や教委ではまだ、いじめが人を殺す怖い行為だと認識されていない」と述べた。

 遺族が元同級生らを相手に損害賠償を求めた訴訟で19日、大津地裁はいじめと自殺の因果関係を認めた。「いじめは命を奪う」という司法の声に、教育現場はどう応えるのか。

 大津市教委は20日、小・中学校長会で校長らに判決の内容を説明し、対策に生かすよう呼び掛けた。丹羽広光教育次長は「判決に関わらず、事件以降、市は『命に関わる問題』という前提でいじめに向き合ってきた。その意識を風化させないように今後も全力で取り組む」と思いを新たにした。

 被害者支援団体「いじめから子供を守ろう ネットワーク」(東京都)の井澤一明代表は「判決がいじめの抑止力になってほしい」とする一方、「教員は今以上にいじめをすることの重大さを子どもに伝える必要がある。もっと積極的に向き合うべきだ」と訴える。

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 11年10月11日、マンションの14階から13歳の少年は身を投げた。19日の大津地裁判決は、少年がいじめを苦に自死したと認めた。司法を動かした命の教訓はどう生かされているのか。教育現場を訪ねた。