首相官邸の意向を受け、賃金水準が上昇したかのように統計手法を操作したのではないか-。

 毎月勤労統計をめぐり、国会ではこうした追及が続いている。

 最大の焦点は、2018年に行われた中規模事業所の調査対象の入れ替えだ。

 従来は、2~3年ごとに対象企業を総入れ替えしていたが、この年から一部入れ替え方式に変更された。

 一部入れ替え方式は、総入れ替えより賃金水準が上振れする傾向がある。全て入れ替えれば、競争力があり賃金が上昇している企業と、賃金が比較的低い新設事業所が置き換えられることがあり、入れ替え後の賃金は総じて低く表れる。

 実際、15年に実施された総入れ替えでは、現金給与総額などの増減率が過去にさかのぼっておおむね下方修正されている。

 疑問なのは、当時の首相秘書官と内閣参事官が厚生労働省幹部と面会し、「経済の実態を適切に表すために」とする「問題意識」を伝えた直後からこの方法を見直す方向で検討に入ったことだ。

 識者で構成する厚労省の検討会は総入れ替え方式を続ける報告書案を用意していた。しかし、面会日当日に厚労省から検討会座長に「委員以外の関係者から部分入れ替え方式で行うべきとの意見が出た」とメールが送られ、報告書案が書き換えられた。

 元首相秘書官は厚労省幹部との面会を「私個人の考えを話した。首相の指示ではない」と説明し、厚労省幹部は「報告書案の書き換えは首相秘書官との面会前に指示した」と答弁している。いずれの説明も極めて不自然だ。

 安倍晋三首相は「秘書官は自分の判断で動く」と関与を否定している。首相秘書官が首相の意向と無関係に動くとは、にわかに信じがたい。事実ならそれ自体が重大な問題である。

 首相周辺が首相の意向を先取りして「問題意識」を伝えたなら、森友・加計問題と同様に「忖度(そんたく)」で行政をゆがめたことになる。

 政策の根幹にかかわる統計は、調査手法を変更する際も、検証可能なプロセスを経る必要がある。説明責任を負わない首相秘書官の関与は、不透明さを増幅させる。

 ただ、国会審議は分かりにくい。政府・与党が関係官僚の参考人招致や資料公開を小出しにしているためだ。

 首相官邸の関与がないなら積極的に情報を開示できよう。統計不信を払拭(ふっしょく)する責任は政府にある。