住民の不安を拭えないまま、なぜ結論を急ぐのか。

 東日本大震災で被災した東北電力女川原発2号機(宮城県)について、村井嘉浩知事がきのう、再稼働に同意を表明した。再稼働へ一歩近づいたが、事故に備えた住民避難計画の実効性への懸念は根強い。拙速な判断に疑問が残る。

 女川原発は震災時、震度6弱を観測して全3基が自動停止した。高さ約13メートルの津波に襲われ、2号機原子炉建屋地下が浸水。外部電源は5回線のうち4回線まで停止し、過酷事故の一歩手前だった。

 このため東北電は地震の想定を引き上げ、海抜29メートルの防潮堤の建設などを進め、2月に原子力規制委員会の審査合格にこぎ着けた。安全対策費はおよそ3400億円にも膨らんだという。

 東北電は安全対策工事が完了する2022年度以降の再稼働を目指すが、その前提となる地元同意の手続きは既に立地する石巻市、女川町と県の議会が容認。知事と両市町長の意向表明を残すだけとなっていた。

 再稼働に向けた地元同意は、被災原発としても、事故を起こした東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型軽水炉(BWR)としても全国初となる。影響は大きい。

 震災から来春で10年になる。女川町などは人口減が著しく、復興への道のりは険しい。再稼働容認の背景には原発の経済効果に対する期待がある。「原発マネー」に依存しがちな財政事情もあり、原発との共存は避けて通れないとの判断が働いたようだ。

 とはいえ、東北地方の太平洋沿岸では過去に地震や津波が繰り返され、今後の発生確率も高い。再び巨大災害に見舞われた場合、本当に耐えられるのか、「想定外」はあり得ないのか。

 原発事故が起きれば被害は広範囲に及ぶ。政府は6月、30キロ圏内の約19万9千人を対象とする避難計画を了承したが、周辺はリアス海岸の地形で退避経路が限られる上、道路寸断の恐れもある。重大事故時に数千人規模が同じ時間帯に逃げる計画は現実的とは言い難い。遅れている避難道路の整備も予算化の見通しが立っていない。

 県が8月に各地で開いた説明会では「本当に命を守れるのか」といった意見が相次いだ。知事は住民の不安にどう応えるのか。

 原発の工事完了まで2年ある。安全確保を第一に避難計画の実効性を高め、住民が納得するよう説明を尽くさねばなるまい。再稼働へ前のめりな姿勢は無責任だ。