完成した織画を前に話す佐野さん(右)と佐竹さん=京都市右京区・植藤造園

完成した織画を前に話す佐野さん(右)と佐竹さん=京都市右京区・植藤造園

 「桜守」として知られる造園家、佐野藤右衛門さん(92)=京都市右京区=が、自身が育てた桜を京都の伝統工芸で後世に残す取り組みを進めている。今夏は、富士山が見える静岡県のゴルフ場に咲く桜を西陣織の織画にした。佐野さんは「百年たつと絹本来の美しさが出る」と未来に思いをはせる。

 織画は、佐野さんが呉服問屋の外市(下京区)に相談し、西陣織製造の佐竹孝機業店(北区)の佐竹司吉社長(72)が1年以上かけて完成させた。

 織画にしたのは、円山公園(東山区)のシンボル「祇園しだれ桜」の子孫で、佐野さんが2018年、ゴルフ場の太平洋クラブ御殿場コース(静岡県御殿場市)に移植した桜を中心とした5本。今春、佐野さんが佐竹さんらと訪れたとき、一瞬だけ雲が晴れ、富士山を背景に満開の桜が咲き誇った。不動の霊峰と、一刻一刻と変わる風景が語り掛けてくるような一瞬を西陣織に閉じ込めようと試みた。

 「古典的技法で、いまの最高の西陣織を作ってほしい」という佐野さんの要望を受け、佐竹さんが自ら蚕を育て、糸を手で引き、手織り中心で仕上げた。佐野さんが桜を育てる山に何度も見学に出掛け、桜だけで5色を使い分け、つぼみや満開、散りかけの色の変化を表すなど、28色を使った。織画のサイズは縦39センチ、横70センチ。裏側に多くの糸が渡る織物を、ゆがみなく仕上げるために、何度も試作を繰り返し、熟達した技術を駆使したという。

 完成した織画を見た佐野さんは「数千匹の蚕が形を変え、なお命をつないでいる。自然の思いや心が、手間をかけた分、形になって残る。それができるのは京都だけ。心が入っている」と喜んだ。佐竹さんは「作品は語らないが、われわれが気持ちを込めて作った背景を感じてほしい」と話した。