■「発見」を無駄にしない


 ただ、どれだけ創造的な「発見」を記しても、死蔵しては意味がない。

 ここで「カード」の出番だ。「カード」の形式はともかく、梅棹が重視したのは「情報の断片化と規格化」と小長谷教授は言う。

 手帳やノートに書かれた情報は、ページが固定されていて、内容の順序が変更できない。さまざまな情報を、統一された「カード」にばらすことで整理され、一覧もできる。

 この「カード」の組み替えが最も重要だと、梅棹は『知的生産の技術』で指摘する。「知識と知識とを、いろいろにくみかえてみる。あるいはならびかえてみる。そうするとしばしば、一見なんの関係もないようにみえるカードとカードのあいだに、おもいもかけぬ関連が存在することに気がつくのである」

 単体では魅力に欠ける情報も、別の情報とつなげることで光り輝くこともある。脳内にあっただけでは思いも付かなかった情報の結合が、「カード」にすることで起こる。

 この方法論はIT時代の今こそ、より活用の幅が広がっている。

 生誕100年記念企画展の端末で披露されているソフト「梅棹クルーズ」。画面の中で立体的なドーナツ型になったカード群に手を触れて拡大していくと、全然関連がないようなメモとフィールドワークでの写真が上下左右、そして画面奥に見える。カード群はドーナツ型だけでなく、球形や平面など、さまざまな種類の形が選べるようになっている。「こうした遊び心がAI時代にはできる。紙のカードでは生まれなかった発想も生まれうるのでは」と、国立情報学研究所の阿辺川特任准教授は語る。

 情報の蓄積と整理による検索システムにいち早く取り組み、時代の先を行く洞察やスケールの大きい文明論を展開した梅棹が亡くなって10年の節目でもあった今年。生前の飽くなき記録への執念が、「知の冒険者」の降臨を実現させた。