シャツへの思いを語る森蔭さん(京都市上京区)

シャツへの思いを語る森蔭さん(京都市上京区)

1枚ずつシャツを手作りする久米さん(彦根市)

1枚ずつシャツを手作りする久米さん(彦根市)

 年末年始の特売はもちろん、日本でも米国にならって感謝祭セール「ブラックフライデー」が行われるようになった。商店やデパート、ネットショップなどでセールは身近だが、割引せずに定価販売にこだわる店もある。店主に聞くと、そこには商品に込めた思いがあった。

 ガラス張りの店内に、定番の白いシャツや、襟やカフスに遊び心のあるシャツが並ぶ。京都市上京区のシャツ製造販売店「モリカゲシャツキョウト」は1997年の直営店開店以来、定価販売を続ける。店主の森蔭大介さん(50)はその理由を「お客さまのまなざしをシャツに向けてもらいたいから」とする。

 アパレル業界は「今年の服は来年着ない」が暗黙の了解で、トレンドは毎回変わる。トレンドの「賞味期限」が迫ると百貨店やファッションモールはクリアランスセールをするのが通例だ。「前日まで定価だったのが半額になると、お客さまの視線は服よりも値段に向かってしまう。僕は年間通して同じテンションで商品に目を向けてほしい。そのためにはセールをしない営業しかない」

 セールをしないもう一つの理由は、シャツ作りを楽しみたいとの思いがあるから。店が大きくなれば従業員も増え、目標の売り上げを得るために多くのデザインを考え、多くの在庫を保有しなければいけない。「在庫のバランスを取るための切り札がセール。僕はセールを見越した運営に時間を費やすより、着心地が良くて、着ていて楽しい気持ちになるシャツを考えることに時間を割きたい」。現在運営するのは京都、東京の実店舗とオンラインショップのみ。価格を保つため、卸売りもしていない。

 「セールって一体誰が喜ぶのでしょうか。買い手、作り手、原材料を作る人たち全てが喜べるのならあってもいいと思うのですが」と話すのは、滋賀県彦根市大藪町で手作りシャツ店「COMMUNE」を営む久米勝智さん(43)。縫製のみ専属の人に手伝ってもらうが、デザインから接客まで行う。1枚に込めた値段は原価と労働の対価だという。

 アパレル業界による「トレンド」も疑問視する。「以前作ったシャツも新しく作ったシャツも、僕にとって同じ価値。自分の手は変わっていないのに1年が経過したという理由で価値が安くなるとは思えません」。革細工や家具の作家の作品は年数を経ても定価販売が多い。久米さんはシャツも同じだという。