教訓を生かす実効性を伴った改革が必要だ。

 患者の予期せぬ死亡を対象とする「医療事故調査制度」が始まって5年がたった。

 全国の医療機関が、制度に基づいて第三者機関「医療事故・支援センター」に届け出た件数は計1847件と想定を大きく下回り、地域や医院ごとの対応の格差も目立っている。

 事実を究明し、再発の防止に役立てるという目的を果たせているとは言い難く、形骸化の懸念が拭えない。

 5年を節目として、いかに制度を機能させ、医療の質の向上につなげられるか。丁寧な検証と見直しが求められよう。

 制度は、相次ぐ医療事故への対処として医療法に規定され、2015年10月に始まった。

 センターを運営する日本医療安全調査機構によると、発生報告数は想定された年1300~2千件より大幅に少なく、各年300件台で推移している。

 地域差もあり、人口100万人当たりの年間件数で最も多い宮崎県5・6件、3番目の京都府4・9件と最少の山梨県1・2件で4倍以上の開きがある。

 高度医療を担い、重症患者らが利用する大規模病院は発生報告が多い傾向にある。だが、病床600床台の施設の4割、900床以上の2割で報告実績がなく、適切な対応が行われていない可能性があるという。

 大きな要因が、対象の「予期せぬ死」の解釈の幅が広く、報告するかどうかが医療機関の自主的な判断に委ねられていることにあるのは明らかだ。

 制度にはセンターが相談を受け、専門家による合議で助言する仕組みもある。だが、医療機関が従う義務はなく、昨年に「報告を推奨する」とされた37件のうち4割超で、その後の報告や調査が行われていない。

 医療側には、届け出が責任追及や訴訟につながることへの警戒感が根強い。だが、誠実な原因究明と説明こそ医療への信頼をつなぎ、遺族が死を受け止める助けになるのではないか。

 センターでも相談制度などの在り方を検証するとしている。事故の実態を埋もれさせることがないよう、届け出や調査、報告内容の基準をより明確にし、適切な制度運用を担保するセンターの機能と権限を強化することが不可欠だろう。

 遺族らのグループは9月、報告の推奨に応じない医療機関にセンターが指導、勧告を行えるようにし、従わなければ機関名を公表するなどの制度改革を厚生労働省に提言した。検討してよいのではないか。

 現在は公開されていないセンターの独自調査や個別の調査報告書について、個人情報が特定されない要約版での公表を求める声も上がっている。

 「教訓の宝庫であり、医療の『標準』を示して無用な萎縮も防げる」との専門家の指摘に耳を傾ける必要があろう。

 医療界全体で問題点を共有することが重要だ。公正な調査や対策の立案、運用を担う専門的な人材の育成と現場教育の充実も欠かせない。