■④ 三密行


MEGUMI 例えばどんな言葉でしょう?

熊谷 観音様の場合ですと「オン アロリキヤ ソワカ」。薬師如来様では「オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ」などです。真言それぞれに、悪霊退散や健康長寿、五穀豊穣など疫を祓う意味がさまざまあります。

MEGUMI 聞いたことありますね。 熊谷 昨今、コロナ禍において「三密」というのがよく世間で言われていますが、実は「身口意(しんくい)=行動・言葉・心を整える」という「三密行」というものがあります。一番簡易なのは合掌です。右手が大日如来様(仏)で、左手の私をあわせて一体となるわけです。真言宗では、漠然と手を合わせる合掌よりも、堅く強く仏様とご縁を結ぶことが出来る金剛合掌(金剛とはダイヤモンドを意味)をすることが多いですね。何事にも動かない心を持った合掌です。

MEGUMI 言霊の話がありましたが、自分の発する言葉って自分に返ってきますもんね。不平不満を持つばかりではなく、簡単で誰でもできるところから、例えば、1日1回ありがとうと言うだけでも違いますよね。

熊谷 いまの世の中は、そんな小さなこともないですよね。だからこういう災禍がたびたび訪れるのだと思います。一番簡単で、一番心が出る言葉「ありがとう」もあまり言える社会ではありません。

MEGUMI そうなってしまう弱さはどこからきてしまうのでしょうか。

熊谷 甘えです。欲に負けていますね。現代の日本は欲だらけで、誰もがいろんな欲に引っ張られているんですね。しかしもう待ったなしです。時代は本当に変わりました。いや、ここで変わらないとダメだと思います。一人が変われば周りも変わっていきます。自分からいい気が流れるようにする必要があります。

■⑤ そよかぜ


MEGUMI 具体的にはどうしたらいいのですか?

熊谷 あまり難しいことを考える必要はありません。まだチャンスはあります。皆が相手の立場に立って、積極的に明るくいればいいのです。この人が来たら気持ちいいな、空気が軽やかになるなとか、「そよかぜ」みたいになるのです。

MEGUMI シンプルに自分の体がどうなっているか、どんな音が聞こえるか、要は「今を感じる」というのが圧倒的に足りていない気がしています。明日どうしようとか、あの時いやだったなとか、過去と未来ばかりを常に考えて、今を感じていない。それが一番問題なのかなと思ったりしています。

熊谷 そうですね。1日5分でも自分を見つめ直す時間を持っていただいたらよいかと思います。「そよかぜ」のようになるには、利他行以外に反省する時間も必要です。また、「そよかぜ」のような人の行動を真似ることもいいですね。私も周りの多くのお坊さんの真似をしています。

MEGUMI 真似という意味では、最近本当に感動した人がいます。自分がいかに目立つかをまず考えがちな芸能の世界で、その人は全体を観て、作品を良くするための言動を的確にされていたんです。その向き合う姿勢とエネルギー、力の注ぎ方に心を打たれましたね。お会いする前までは、なぜ人気なんだろうと思っていたんですが(笑)。

 そこで思ったのは、人を楽しませるには、自らが本当に楽しまなければ無理が生じるということです。作品を圧倒的に自身でおもしろがるというのを学びました。自身で楽しむ前に、「もっとああなりたい、こうなりたい、あの人は、この人は」などと考え、他人と比較して、勝手に傷ついたりして。

 泉涌寺さんが800年続いてきたなかで、もちろん苦難もあり大変でつらいことはあったと思いますが、根本的に、お釈迦様への信頼と好きの気持ちがそこにあるからなんだと思いました。

熊谷 そうですね。災害や戦争、政治体制の転換などあるなかで、心ある人たちの支えのなかで、今日まで続いてきているわけです。その人々皆の思いが詰まっているわけですから、絶やすことはできません。そういう思いを伝えていかなければならないですよね。

 人生には、良縁と悪縁ともにありますが、悪縁はそう多くはありません。多くの方との出会いは、それぞれに必ず意味があるんですね。自身が「そよかぜ」になって悪縁をも変えていけるようになれたら素晴らしいですよね。

 心の変化を伴う、「浄化の時代」。変わらなければならない時代です。今私たちは、試されています。小さなことでも、少しずつ意識して何かをしていかないといけません。1人1人の個人単位での行動が、世界を変えていく力になるはずです。

撮影:植村幸NINA