小さな喫茶店「六曜社」が開業70年を迎えた。コーヒー好きの街・京都で愛され続ける個性の秘密とは。著書『京都・六曜社三代記 喫茶の一族』を書くに至る軌跡。(THE KYOTO=樺山聡)

■1階と地下、入り口も別々


 六曜社に通うようになって、もうかれこれ20年にはなる。繁華街・四条河原町のほど近く。河原町通に面した喫茶店。初めて訪れたのは大阪の大学時代だから30年近く前。その時は、地下店に入った記憶がある。

 地下店と1階店は入り口も別々で、メニューも微妙に違う点で、喫茶店としては一風変わっている。家族経営だが、それぞれ責任者が異なるのだ。

 もちろん学生の頃はそんなことは知らず、「有名な京都の喫茶店」ぐらいの感覚で入ったと思う。

 演劇やライブのポスターが壁に何枚も貼られた階段を降りて地下店に入ると、14席のカウンターと3卓のテーブル席。昼間でも適度に暗くて、木のぬくもりと優しい明かりに包まれる。壁の一部にある深緑色の陶板も洒落ている。夜にはバーに移行する空間は、若者をちょっと背伸びした気分にいざなう。

 「すごくいい感じやん」

 インスタを見て訪れたとおぼしき若い女性2人連れが席に座るなり、そんなふうに話しているのを最近見たことがある。

 「コーヒー高くない?」

 1杯500円は、マクドナルドやコンビニに比べれば高く感じるかもしれない。でも、自家焙煎の深みのある味は、決して高くはないことが、今では分かる。

 京都が職場になった2000年代はじめから、取材や休日で近くを訪れるたび、立ち寄るようになった。

 1階では、入り口を入ってすぐの、店員が「水槽」と呼ぶ席が気に入った。

 壁に埋め込まれた水槽を背にした狭い席を気に入った理由は、1階店には「相席文化」があるからだ。

 ローチェアのテーブル席が35席。混み合う時間帯は店員から相席をお願いされる。「水槽」は、確実に一人で悠々と静かな時間を味わえる特等席なのだ。

 1階店は、より庶民的な「王道喫茶店」の趣がある。コーヒーと名物の手作りドーナツを味わいながら、買ったばかりの本やCDのライナーノーツを読むか、全紙そろった新聞から好みを選んでゆっくり読むか。コーヒーも本格派で、ほどよく落ち着ける喫茶店は京都でも意外に多くはない。

 これは地下店にも言えることだが、六曜社には何とも言えない温かみが漂う。

 瀬戸内寂聴さん(98)は、作家として歩み出す以前の戦後間もない頃、六曜社に何度も足を運んだ。