中国人にとって豚は特別な動物だ。紀元前14~11世紀の殷墟(いんきょ)から出土した甲骨文に早くも飼育の記録があり、今も肉といえば豚肉をさすほどだ。春節や結婚式などお祝いの日はもちろん、日常の料理にも欠かせない▼年間の消費量は約5500万トン。世界の流通量の実に半分を占める。その中国でアフリカ豚コレラが昨年8月から流行し、既に1億頭以上が処分されたという。気の遠くなるような数だ▼日本で発生している豚コレラとは別の病気で、有効な治療法やワクチンはなく、致死率は100%近い。中国政府は備蓄豚肉の放出などをしているが、養豚業者の廃業などで価格は高騰し、庶民の食文化を圧迫している▼もちろん日本人にとっても、対岸の火事ではない。アジアでは、今年に入り韓国などにも感染が広がった。日本政府は水際の対策を強めるが、今年1月に中国から持ち込まれた豚肉製品からウイルスが見つかっている。予断を許さない状況だ▼侵入すれば「日本の養豚業の崩壊につながりかねない」(江藤拓農相)と政府の危機感は強い。検疫関係者からは「訪日客の急増に対応が追いつかない」との声も漏れるが、ここは踏ん張りどころだ▼日本もトンカツや豚しゃぶなど豚肉料理の幅は広く、歴史もある。守らねばならない国民食である。