京都の向島団地(伏見区)で育ち、国内屈指の人気ラッパーとなったANARCHY(アナーキー)。初めて監督した映画「WALKING MAN」に込めた思いとは。(インタビュー:三好吉彦、構成:岡本晃明)

 

            

―なぜラッパーが映画を撮影しようと思ったのでしょう
映画を撮りたいというのは自分の中にあって、ものを作るのも好きやし、映画を撮りたいという夢を叶えたいなって。それこそ25歳ぐらいからの夢です。映画って面白いじゃないですか、一生残るし、なにか自分の中に、音楽も一緒ですけれども、音楽と一緒ぐらい興味のあるものでもあったので、いつか撮りたいという漠然とした夢でした。言い出したらきりがないくらい、いろんな映画に影響されました。一番よく通ったのは滋賀県の映画館ですね。人が少ないんで。イオンモール草津ですね、橋を渡ったところの。
―映画ではご自身の人生もある程度は加味しながらストーリーを作っていると思うんですけれども、どの辺りをご自身と重ね合わせていますか。映画の主人公の少年は吃音ですけれども
 俺ではないんでね、この主人公は。今探しているんですよ、俺と同じところはどこか、その質問は食らったことがあるのに、何て答えていたのかなと。
両親がいないとか家庭環境も良くないし、そこは一緒だけど全く違う人物ですね。主人公「アトム」と(表現への)初期衝動の部分は同じかな。何で俺だけこんなところに生まれて、こんな貧乏な生活をしたり、なんで俺にはお母さんがいいひんのやとか、いろんなこと、多分俺の中でもあったし。なんか自分は特別な人間やと思う時が結構多くて、 それはいい意味ではなくて、なんかそういうものを彼は最初は無理だったけれども武器に変えられた、それがラップやった。そういう部分は自分が生きて感じ、経験してきたことを元に、この主人公アトムに魂を詰め込めたかな。

《映画では極貧の母子家庭に育ち、人前で話すことも笑うことも苦手な少年が、母が事故に遭い苦境に陥る。ソーシャルワーカーは「自己責任って聞いたことあるでしょ? なんでもかんでも世の中のせいにしちゃダメだからね」と、冷淡な言葉を浴びせる。主題歌や主人公が歌う劇中歌など楽曲も、ANARCHYが手掛けた》
 コンプレックスやマイナスな部分を全てプラスに変えられるのが音楽や夢の原動力のすべてじゃないですか。貧乏なやつこそ金持ちになりたいと願う。金持ちの人は金持ちになりたいと思わない。そういうところが映画の「吃音」で表現したかった部分です。
―この映画で大切にしたかったことは
 夢を持ったりする事って綺麗事やけれども、大事じゃないですか。それで夢が見つけられない人もいるし、やりたいこととか言いたいことを言えない人とかもいる。そういう人たちに一歩踏み出す勇気だとか、どんな環境であっても貧乏であってもお金持ちであっても、自分の人生とか夢とかを決めるのは自分なので、それを見つけた時にちゃんと一歩を踏み出せるようなものにしたいなと。
もちろん大人が観てくれて初心に返ってもらうのも大事だけれども、やっぱり一番は若者たちに観てほしい。その初期衝動の映画であると思うので、見つけられていない人も、もし見つかったらその夢を大切にしてほしい。立ち止まってないで一歩踏み出せよ、とのメッセージをこの映画に詰め込んでいます。

写真提供©Cherry Chill Will.

       

 ―言いたいことがANARCHYさんは言えるけど、言いたいことが言えていない人たちのために作ろう=代弁者=ということしょうか
そういうことですね。ラッパーは代弁するけれども、この映画を観たら誰かに代弁してもらわなくても、自分でその自分の口で言えるようになるかもしれないですね。ANARCHYがラップしても「ANARCHYやから言えるんやろう」と思われるけれども、映画のアトムという架空の人物が(ラップや表現を)やることによって「こんな気の弱い静かな少年ができて俺ができない理由がない」という風に受け取ってもらえたら。代弁してもらわなくても、自分の口で言えるのではないのかな。
それが僕の音楽ではできなかった。できないと言ったら変ですけれども映画なら、さらに表現できることなんだろうなと。

―今後の活動は
映画も撮りたいですけれども、やっぱり音楽家なので、ラッパーなので。映画を作ったことによってまたもう一段階、味のある音楽が作れるのではないのかなと。とりあえずこのまま自分の好きなもの作りを、やり続けると思います。