「(勝つために)鬼になる」。ラグビーW杯決勝トーナメント進出の懸かったスコットランド戦直前、日本代表のリーチ・マイケル主将は語った。大一番への覚悟は直球で伝わった▼鬼は私たちにとって怖いながらも近しい存在だ。古事記にはじまるさまざまな物語、ことわざから日常会話まで繰り返し登場する▼東海道を旅する人の土産物として大津で描かれてきた大津絵では人気キャラクター。大津市歴史博物館で開催中の企画展「大津絵-ヨーロッパの視点から」(11月24日まで)で、江戸時代の民衆が親しんだ鬼たちに出会える▼大津絵は素朴ながらユーモラス。風刺が効いている。10の主要画題があり、鬼が僧衣をまとって鉦(かね)を掛け、左手に奉加帳、右手に撞木(しゅもく)を持つ「鬼の念仏」が最も人気だ▼慈悲の心もないのに形だけの善行を積む偽善者を表すが、誰もの心に潜む闇を鬼の姿に託したという見方もある。角が1本折れている決まりなのは欲や自分本位の考えといった「我」を折れとのメッセージ▼ディズニーの「美女と野獣」のような組み合わせの「鬼念仏藤娘図」や現代のフィギュアを連想させる木製彫刻の鬼の像も並ぶ。画題という枠を飛び出して生き生きと躍動する鬼たち。フィールドを自由に駆け回る、屈強なラグビー選手に見えてきた。