学生の街・京都には1960~70年代、ジャズ喫茶がひしめいていた。私語厳禁。大音量のレコードをひたすら聴く。そんな独特の「音楽空間」だったが、今やほとんどが姿を消した。(THE KYOTO=樺山聡)

 その中で生き残った数少ない店が「YAMATOYA」(京都市左京区)。温かみのある音で近年再燃しているレコード人気の原点とも言える店は、今年3月に開業50年を迎えた。

 五木寛之さんの小説にも登場し、京都のジャズ喫茶文化をけん引した「老舗」は今、海外から熱い視線を集めている。その秘密に迫る。

 3月3日。京都大学医学部付属病院に近い路地裏の「YAMATOYA」は半世紀の節目を迎えた。

 常連客が次々と大きな花束を持って訪れた。遠方から駆けつけた人もいた。

 「わざわざ足を運んでいただき、ありがとうございます」

 カウンターに立つ店主の熊代忠文さん(78)が、妻の東洋子さん(76)とともに笑顔で出迎える。

 大きな記念日とはいえ、特別な催しは開かない。あくまで自然体。「常連さんに余計な気遣いはさせたくない」。常連客に向けた普段の愛顧への感謝のはがきも、数日前に送付した。

 それでも駆けつけてくれた人々には、もれなく店名の文字を入れた特注のボールペンとメモ帳を贈った。「出会う人に恵まれたからこそ、ここまでやってこられた」。忠文さんは感慨深げに振り返る。