京都・南座から始まった2008年の米團治襲名披露では、坂田藤十郎から贈られた祝幕を背に口上を述べた米團治(中央)。父の桂米朝(左から2人目)らも並んだ=京都市東山区

京都・南座から始まった2008年の米團治襲名披露では、坂田藤十郎から贈られた祝幕を背に口上を述べた米團治(中央)。父の桂米朝(左から2人目)らも並んだ=京都市東山区

高座で語る桂米團治

高座で語る桂米團治

「上方のいろんな文化を感じられるのが『たちぎれ線香』です」と語る桂米團治(京都市内)

「上方のいろんな文化を感じられるのが『たちぎれ線香』です」と語る桂米團治(京都市内)

 上方の粋を感じさせる上方落語屈指の大ネタ「たちぎれ線香」を、桂米團治(よねだんじ)が1月の京都での独演会で披露する。大店の若旦那と、うぶな芸妓の悲恋を、物語にぴったりな地唄「雪」も絡めながら、余韻を大切に描く。5年前に亡くなった父親であり、師匠でもある桂米朝の噺の中でも名品中の名品。米團治は、米朝から「前半が大事なんやで」と教わったという。その心とは―。

「前半が大事」 米朝教え胸に

 米朝落語を語る上で挙がりやすいネタが「地獄八景亡者戯(ばっけいもうじゃのたわむれ)」。ただ、米團治は「あれは飛び道具みたいな噺。大ネタというのは『たちぎれ―』であり、『百年目』でしょうね」と語る。

 「たちぎれ―」は、芸妓に入れ揚げる若旦那を諫める大店の番頭、お茶屋の女将さんら上方の匂いのする登場人物を語り分けながら、若旦那と芸妓の悲恋へと徐々に収斂していく。

 後半は笑いが少なく情感が問われる分、米朝は「前半に笑いがなかったら落語として成立しない」と語っていたという。「前半の若旦那と丁稚のやりとりで笑いを十分に取ることで、まさか噺が悲恋につながっていくとは観客に予感させない。メリハリが大切ということです」と米團治。

 30代の頃、米朝から「おまえもそろそろ『たちぎれ』をやったらどないや」と言われ、挑み始めた。「当時は若旦那を普通にやって、(貫禄のある)番頭を意識的に演じなければいけなかったですが、僕自身、還暦を超え、番頭というより、もう旦那の年齢になっているんですよね」

地唄「雪」流れ 悲恋いっそう

 噺の後半に三味線の音色とともに流れてくる地唄の「雪」は、現れぬ恋人に思いをはせ、冬の夜の寂しさを嘆く女性が、昔の思い出に引き込まれ…という詞章。「耐える女の情感を出すのに、ふさわしい音楽。いろんなのものを自由に取り込んできた上方落語という芸能を、よく表しています」。商家やお茶屋の古き風習など、上方の文化を凝縮した噺といえる。

 独演会は府立文化芸術会館(上京区)で1月24日に開催。コロナ禍のため、客席使用を定員の50%に抑えることもあり、1日2回公演とする。「たちぎれ―」は午後5時開演の部のみで披露。ほかに米團治が「つぼ算」を語る。3400円。

 一方、午後1時開演の部は「京の茶漬」「どうらんの幸助」など京ゆかりの噺を披露。日曜の公演は昼の部から売れる傾向にあり、こちらの部は既に完売。詳細は主催の京都ミューズ075(353)7202。

故藤十郎の思い次代に

 昨年亡くなった上方歌舞伎の象徴・坂田藤十郎=京都市出身=は、桂米朝らと並んで昭和から平成の上方芸能を支えた巨星だった。米團治は、2008年の自らの襲名披露で、藤十郎から祝い幕を贈ってもらったことを振り返り、「本当に感謝しかありません。次は僕たちの世代が上方の文化を大切に伝えていかなくては」と誓う。

 京都・南座から始まった2008年の襲名披露では、藤十郎からの祝い幕について、桂ざこばらが「ちゃーちゃん(米朝)にも感謝せなあかんぞ。おまえ一人やったら、『アホの坂田』(坂田利夫)ぐらいからしか、もらえへんのやぞ」とネタにしていた。

 米團治は、藤十郎について「曽根崎心中はもちろん、歴史的な大名跡を襲名して復活されるなど、上方の芸や匂いを今に伝えていただいた」とたたえた。

コロナ禍でも新風を 社長兼任

 米團治は、50人近い一門の落語家を擁する「米朝事務所」の社長に、2018年就任。噺家の活動と兼任しつつ、多彩な落語会や企画のかじ取りを担う。

 コロナ禍で増えてきているのが1日2回公演。今回のような独演会になれば、1人で1日5~6席を語ることもあり、「落語家としては体力的にぎりぎり」との本音も。ただ、コロナ禍の中でも観客に足を運んでもらえるよう「本当に食いついてもらえる企画が必要な時代になった」とみる。

 それでも「コロナのおかげで気付きがあったり、実現できたりすることも多いはず」と前向き。「社長をトップにしたピラミッド型や肩書社会ではなく、誰もが、いろんなジャンルの人とサークル的につながれる時代。落語家以外の人たちとも、いろんな企画を考え、新風を起こしたい」と力を込める。

 主催公演としては、1月5日午後6時半から府立文化芸術会館(上京区)で「花形落語会」を開催。桂南天、桂吉弥をはじめ、京都出身の桂米紫、桂ちょうばらが出演する。米團治は出ないが、「事務所イチ押しの中堅若手が集まる噺家の花形顔見世です」と薦める。詳細は米朝事務所06(6365)8281。=敬称略