開業当初の天下一品「北白川本店」。屋台を引き始めて4年後に開店した

開業当初の天下一品「北白川本店」。屋台を引き始めて4年後に開店した

■屋台の初日は11杯、本店オープンした時は何百杯と売れた

 ―屋台を引き始めてから4年後には京都市左京区一乗寺に「北白川本店」を構えます。

 「本店ができる前にこってりスープは完成していた。でも、鍋が小さいから、作っても20杯分のスープにしかならない。それでは商売にならなかった」

 ―こってりを本店で食べた客の反応はいかがでしたか。

 「おいしいなぁと感心していた。屋台の初日は11杯しか売れなかったのに比べると、本店がオープンした時は何百杯と売れた。お客さんはタクシーの運転手が多かった。どこにでもある味を出していたらあかん。これだけ濃度のあるスープはいまだにないでしょう。よそにない味をいかに出すか。これが大事やわな」

 ―天下一品でこってりを注文するのはお客のおよそ7割だそうですね。

 「お客さんの半数以上がリピーター。屋台の時から通っていてくれたりする。ありがたいこと。でも50年近くたつと、お客さんも年取ってきはる。運動不足でこってりを食べられないと言うわけ。だから『運動しなさい』とお客さんに言っている(笑)」

 ―あっさりや屋台の味を作ったのは、そのためですか。

 「本音を言うと何種類も作りたくないが、お客さんを無視するわけにはいかん。うちに家族で来てくれても、こってりだけだと、おじいちゃん、おばあちゃんが食べられない。お年寄りも食べられるラーメンをと、あっさりを作った。こってりは食べにくくなったが、あっさりだと頼りないと思うお客さんもいる。屋台の味は、そんな人のためにスープを半分ずつ混ぜて作った」

 ―新型コロナウイルスの影響で、天下一品では持ち帰り用の「家麺」が売れています。

 「持ち帰りと宅配は増えていくやろう。でもね、持ち帰りでおいしいものができても店で食べるラーメンはまたひと味変わる。家でテーブルの前で一人で食べるより、店で待たされて、食べるのがうまいんです。それもワクチンができて、コロナが解決しないことには」

 ―ラーメンブームがずっと続いています。なぜ日本人はラーメンが好きなのでしょう。

 「ラーメンは中国が発祥の地。私も中国にラーメンの研究に行ったことがある。中国で教えてもらったけど、やっぱり味は日本の方がおいしいね。50年前と比べても豚骨や魚介系などいろんな種類のラーメンが出てきている」

 ―今後やりたいことは何ですか。

 「一番に老人ホームを造りたい。マンションもやりたい。物件はようけある。大津市の温浴施設『あがりゃんせ』に来るお客さんからも『早く何か造って』と言われている。いろんなことを考えているが、今はコロナで前に進まない」

 ―会長は85歳と思えません。元気の秘訣は何なのでしょう。

 「それはこってりスープや。今でも毎日味見する。味見でいろんなラーメンを食べるけど、やっぱりこってりが一番うまい」

 ―会長が考える、こってりの魅力とは。

 「とろっとした、麺に絡むスープ。あれがうまい。他のラーメンでは麺にスープが絡まない。うちのこってりスープは流れず麺に絡む。だしがうまいからみな食べはる。あの味は50年変えていない。何でも変えたらいいというものではない。こってりは変えないし、変える必要もない」

 ―それでは最後に、こってりスープの調理法については。

 「大量の鶏がらや野菜などを煮込んでいる。ようけ入れたらいいもんではなく、大事なのはタイミングと量。レシピを知っているのは社内でも数人だけ。作り方はって? それは企業秘密や(笑)」

 きむら・つとむ  1935年生まれ。京都市出身。17歳からバーテンダーなどとして働いた後、勤めていた画廊の倒産に伴い、36歳で屋台を始めた。2005年には屋台時代からの常連客への恩返しの思いも込め、大津市の琵琶湖湖畔に温浴施設「雄琴 あがりゃんせ」を開業した。