原口アヤ子さん(左端)の93歳を祝う会で励ます西山さん(右端)ら=(大崎事件弁護団提供)

原口アヤ子さん(左端)の93歳を祝う会で励ます西山さん(右端)ら=(大崎事件弁護団提供)

 裁判をやり直す「再審」制度で、無実を訴え続けてきた本人や支援者の高齢化が一段と進んでいる。再審は「開かずの扉」とも呼ばれ、無罪が確定するまでに数十年を費やすケースも珍しくない。今年は関係者の訃報が相次ぎ、専門家は迅速な審理を保障する法改正を急ぐよう求めている。

■冤罪訴える本人、ずっと支えてきた弁護士…相次ぐ訃報

 滋賀県に関係する2件の再審のうち、2003年に湖東記念病院(滋賀県東近江市)で患者を死亡させたとして殺人罪で12年間服役した元看護助手西山美香さん(40)は今年3月、大津地裁で再審無罪判決を受け雪冤(せつえん)を果たした。

 一方、1984年に滋賀県日野町で女性が殺害され金庫が奪われた「日野町事件」は、一審段階から支えてきた玉木昌美弁護士が今年6月、64歳で病気で亡くなった。強盗殺人罪で無期懲役が確定した阪原弘さんは2011年に亡くなり、遺族による「死後再審」で大津地裁が18年7月に再審開始を認めたが、大津地検が不服を申し立てて大阪高裁に係属中。阪原さんの妻つや子さんは83歳。長男弘次さん(59)は「母が生きている間に父の無実の罪を晴らしたい。他の再審でも命がかかっている」と憤る。

 だが審理の長期化で関係者の高齢化は無情にも進んでおり、存命中の再審無罪を危ぶむ声もある。

■「検察官の不服申し立てが長引かせている」批判の声

 1985年に熊本県で男性が刺殺された「松橋(まつばせ)事件」で、昨年無罪を勝ち取ったばかりの宮田浩喜さん(87)が今年10月に死去。72年前に同県で一家4人が殺傷された「免田事件」で死刑囚として初の再審無罪となった免田栄さん(95)も今月旅立った。66年に静岡県で一家4人が殺害された「袴田事件」では、一審で無罪の心証を得ながら袴田巌さん(84)の死刑判決を書いたと後に明かした元裁判官熊本典道さん(83)が11月に他界した。

 鹿児島県で79年に男性の遺体が見つかった「大崎事件」は原口アヤ子さん(93)が4度目の再審請求中だ。弁護団事務局長の鴨志田祐美弁護士(日弁連再審法改正に関する特別部会長)は「冬を越せるかと毎年思う。今年はコロナで集会も開けなかった」と明かし、再審開始決定に対する検察官の不服申し立てが「救済までの期間をいたずらに長引かせている」と現行法の見直しを訴える。

 日弁連は11月、湖東や松橋を踏まえた刑事司法改革構想の改訂版で「再審は時には死の淵に立たされている無辜(むこ)を救うための最終手段だが開始の要件は厳しい」と指摘。検察側の不服申し立てや証拠開示に関する法改正を重ねて求めた。

■裁判官自身も証拠開示などの課題を指摘、でも法相は…

 大津地裁で日野町の再審請求審も担当した今井輝幸・現大阪高裁判事は11月発行の季刊誌で湖東の再審公判を振り返り、「再審開始決定確定後に新たに相当な点数の証拠が開示されるケース等もあるから、充実した審理及び迅速な判決書作成のために、証拠の全体構造を俯瞰(ふかん)した上での各当事者による証拠の再検討・整理が有益」と寄せた。

 再審公判前の協議で新たに開示された証拠群には西山さんに有利な重要資料が含まれていた経緯がある。

 再審の開始決定や無罪確定を教訓に法改正を急ぐべきとの声が強まっているが、上川陽子法相は京都新聞などのインタビューで、再審のあり方について「現行法の規定に直ちに手当てを必要とするような特段の不備があるとは認識していない」と慎重な姿勢だ。