台風19号の被災地では、今も懸命の復旧作業が続いている。

 阿武隈川(福島県、宮城県)や千曲川(長野県)流域の降雨は「100年に1度」の頻度で起きる極めてまれなものだったという。関東や東北など100地点以上で24時間雨量の過去最大値を超え、70を超える河川で堤防が決壊した。

 想定を超える被害規模だ。

 政府も手をこまねいていたわけではない。昨年の西日本豪雨を受け、年末に「国土強靱(きょうじん)化」に向けた3カ年緊急対策を決定して堤防やダム、排水施設の強化などの治水対策に1兆1100億円を充てるとしていた。

 その出ばなをくじくような強大台風の襲来である。過去の雨量データなどに基づいて立案されてきた現在の治水対策は、年々大型化する台風に追いついていないのではないかと感じる。

 ゴールポストがどんどん遠ざかっているようだ。いったい、どこまで備えれば安心できるのだろう。難しい問題である。

 甚大な被害を目の当たりにすると、堤防整備などに万全を期してほしいと思いたくなる。
だが、予算には限りがある。国土強靱化の3カ年緊急対策でも、実際に堤防が強化できるのは「本当に危険な一握りの箇所」(政府関係者)だという。

 ただ、安全を確保する前提は堤防などのハード整備だけには限られまい。台風19号では、防災に携わる人間の対応力によって被害の様相が変わる可能性があったことを感じさせられた。

 その一例が、ダムを巡る判断だ。昨年の西日本豪雨で愛媛県のダムが緊急放流した後に下流で犠牲者が出たのを受け、大雨前に水を放出してダム容量を確保しておくよう国土交通省の有識者検討会が提言していた。

 しかし今回、6カ所のダムが緊急放流に踏み切ったが、事前の放出はしていなかった。放流を通知するタイミングが変更され、混乱する場面もみられた。

 緊急放流は、ダムが機能しなくなるに等しい。降雨の状況によっては下流の被害を拡大させた恐れもあったはずだ。事前準備や放流決定の過程が適切だったかどうか、検証が必要だ。

 川崎市では、タワーマンションが立ち並ぶ街中に泥水があふれ、建物1階の大部分が水没した。雨水を多摩川に流す排水管から川の水が逆流したという。

 街中に雨水があふれるのを防ぐため排水管のゲートを閉じなかったことで、増水した多摩川から逆流が起きたとみられる。

 街中の冠水と逆流による洪水では、どちらの被害が大きくなるか。これも判断力が問われる場面だったといえる。

 地球温暖化で、豪雨の発生件数や降雨量は今後、大幅に増えることが予測されている。
ハード整備を進めるのと同時に、私たちも洪水が起きるメカニズムや、水がもたらす危険性への理解をもっと深めておかなければ、いざという時に的確な判断を下すことはできない。
ダムや堤防の限界を知り、できる対策をしっかり実行する。強大化する自然災害には、人間も知恵を絞るしかあるまい。