アニメ作品に「お布施」

作画力やストーリー性の優れた作品は、多くのファンを引きつける。当然、自身の人生を重ねれば重ねるだけ、その思い入れも強くなる。だが、それだけでアニメが作り出す愛憎のメカニズムを説明できるだろうか。

作品に費やした金銭の多寡で愛着の度合いを測れる仕組みを「お布施」になぞらえる應矢

映像作家でアニメ研究家の應矢(おおや)泰紀(46)が着目するのは、ファンに多額の金を費やさせることで成り立つ産業構造だ。

テレビ放映で人気が出たアニメは、DVDやブルーレイ、フィギュアなど多彩なグッズとして市場に流通する。

日本動画協会の「アニメ産業レポート2019」によると、こうした二次利用を含めた市場規模は国内外で拡大の一途をたどり、18年は2兆1814億円と10年前の約1・5倍に膨らんだ。

應矢は、アニメ作品に注いだ金銭の多寡で愛着の度合いを測れる仕組みを「お布施」になぞらえる。

「ファンにとっては心のよりどころになる。しかし、作品の成功を『自分のおかげ』と錯覚し、ストーリー展開などで『裏切られた』と受け取った時に怒りや失望感が増大することもあり得る」

テレビでアニメを視聴するだけでなく、グッズに金銭をつぎ込むほど満足感が得られる構図は、CD購入の特典としてアイドルの握手会を催し、売り上げ枚数を飛躍的に伸ばした「AKB商法」と共通するとの見方だ。

ファンと溝「複雑な思い」

一方、SNSの急速な浸透は、ファンの「口コミ」が作品の成否を左右するほどに影響力を持つ時代の到来を意味する。作り手とファンの距離感は絶えず変化し、両者を結ぶ糸は複雑に絡まる。

「自分には守らないといけない人たちがいる」と語る武田

人気アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」を手掛けた「ガイナックス」の設立メンバーで、16年に京都市内に新会社を設立した武田康廣(63)はこの間、希望者のスタジオ見学を幅広く受け入れてきた。

「そもそも、自分がファンの出身。ファンの応援が次の作品につながるし、見学者の中に将来の仕事仲間がいるかもしれない」との考えが根底にあるからだ。

京アニがホームページでスタッフ日記を公開したり、交流イベントを催したりして、ファンとの絆をつむいできた理由も、そんなところにあるのかもしれない。

だが、武田は、素性のはっきりしない人物の見学を断るようにした。「溝ができるのは複雑な思い。だけど、京アニ事件の衝撃があまりにも強烈だった。自分には守らないといけない人たちがいる」(敬称略)

京アニ放火殺人事件は12月16日に容疑者が起訴され、大きな節目を迎えた。高品質の作品と優良な職場環境から同業者たちに「理想郷」と呼ばれた京アニ。連載「ユートピアの死角―京アニ事件」(計6回)では、業界が草創期から抱えるひずみを描き、未曽有の災厄が起きた背景に迫る。(岸本鉄平、本田貴信)

【京アニ事件の関連記事】