「京アニなら人間の暮らし」

「アニメーターの境遇は恵まれたものではない。最初は息子がアニメ業界に入るのは反対だった」

京アニ事件で犠牲になった男性=当時(31)=の父親は、亡き息子がアニメ制作の道を歩もうとした時の心境をこう振り返った。そして、こう続けた。「でも、京アニは生活保障がしっかりしていて、クリエーターを大切にする会社だと思った。ここなら、息子のことを心から応援できると思った」

事件で亡くなった池田晶子。京アニの良好な労働環境を就職希望者に説明していたという(「涼宮ハルヒの憂鬱(ゆううつ) Blu-ray Complete BOX」より)

3年前に京アニの採用試験を受けた現役アニメーターの女性(25)が思い返すのは、事件で犠牲になった池田晶子(しょうこ)=当時(44)=が、会社説明会で朗らかに語る姿だ。

「ここなら、普通の人間の暮らしができます」

定時に出退勤し、生活を続けるのに十分な給料をもらう―。池田自身、子育てをしながら、京アニの屋台骨として活躍を続けていた。女性には、自信に満ちたその表情が輝いて見えた。

京アニは、良質の作品を生みだし続けるのみならず、スタッフに対する待遇の厚さから羨望(せんぼう)のまなざしを一身に浴びてきた。京アニがアニメ業界の「理想郷」と呼ばれるゆえんだ。

そのルーツをたどると、ある言葉に行き着いた。15年前に発行された専門誌「アニメージュ」に記された、40字余りの言葉だ。(敬称略)

京アニ放火殺人事件は12月16日に容疑者が起訴され、大きな節目を迎えた。高品質の作品と優良な職場環境から同業者たちに「理想郷」と呼ばれた京アニ。連載「ユートピアの死角―京アニ事件」(計6回)では、業界が草創期から抱えるひずみを描き、未曽有の災厄が起きた背景に迫る。(岸本鉄平、本田貴信)

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