国宝「北野天神縁起絵巻」(承久本)巻6清涼殿落雷 鎌倉時代

<ミュージアムのちから コロナ禍に考える>

 北野天満宮宝物殿(京都市上京区)は数年前から刀剣の展覧会を開いている。同社には足利家、豊臣家など武家政権が崇敬を寄せ、奉納の名刀が多く残るため公開の機会をつくった。

 「鬼切丸(おにきりまる)は展示されていますか」。予想外に若い世代から問い合わせがあった。重要文化財「鬼切丸(髭(ひげ)切)」が、ゲームやアニメで人気を集めた作品「刀剣乱舞」のキャラクターのモデルになっていたからだ。

重要文化財 太刀 鬼切丸(髭切) 平安時代

 「最初は一過性のことだと思っていた」と学芸員で北野文化研究所室長の松原史(ふみ)さんは言う。だが熱は冷めず、繰り返し見に来る人がいる。「今日はどんな顔かな」と人に接するように刃紋を見つめるファンもいる。公開に感謝する人もいた。

 しかも、来館者の興味は刀剣から広がっていった。天満宮の歴史を学んだり、「宝物を守る力になりたい」とグッズを購入したり。「現代人は価値があると思えるところにお金を使う。それが文化財保護や信仰の新たな形となるかもしれない」と松原さんは分析する。

 北野天満宮は天皇家から庶民まで幅広い信仰を集めてきた。根底には祭神である菅原道真が「人から神になった」ことがある。一流の学者、政治家でありながら流罪に遭った悲運の人。「天神様なら分かってくださる」との思いが人々の願いを集めたのかもしれない。

 道真の生涯と天満宮の由来を描く「北野天神縁起絵巻」も、国宝の承久本を始め、多様な巻が奉納されている。承久本の人物描写、色彩の鮮やかさ、画面の大きさは圧倒的だが、他の巻も奉納者により解釈が異なり、見応えがある。道真が配流先で充実した学問の日々を送ったように描く巻もあり、「文道大祖(ぶんどうのたいそ) 風月本主(ふうげつのほんしゅ)」と敬われた道真への特別な思いが感じられる。

近衛信尹「御神影」 桃山時代

 松原さんは研究者として天満宮に来て3年目だが、防災意識の高さにも驚いたという。訓練では誰もが全力疾走し、近隣の火災に敏感に反応する。神社や宝物が残ってきたのは偶然ではなく人々の努力のたまものだと実感した。「所蔵品は全て奉納品であり、神様のもの。その感覚は美術館とは違う」

 「つかみきれないほど偉大な人」と感じる道真を常に意識しながら研究を続けたいと願っている。

 

 北野天満宮宝物殿 1927年、式年大祭にあたる半萬燈祭を記念して設立。ゆったりした木枠の展示ケースは当時のものを修復しながら使っている。ケース上部には鳥や蝶を描いた有職文様の幕がかかり、刀剣類は白布をかけた台に展示する。北野文化研究所は、学問所のあった伝統を復活させようと2018年、天満宮内に設立された。松原さんは初代室長。これまで明文化されてこなかった歴史や信仰を研究、現代の価値観も考えながら発信していきたいという。京都市上京区馬喰町。075(461)0005。