インターネット空間の「匿名の暴力」を排除できるのか。

 大手サイト運営企業のヤフーが個人を誹謗(ひぼう)中傷する投稿の削除対象を全ての投稿サイトに拡大するなどの基本方針を発表した。

 人工知能(AI)をこれまで以上に活用し、中傷とみなした書き込みを自動で削除するほか、表示順位を下げたり目立たない場所に移動したりするという。

 個人に対する投稿を巡っては、5月にプロレスラーの木村花さんがネット上で中傷された後に死去した問題など、被害者の心を深く傷つける事案が相次いでいる。

 大手のヤフーが不適切な投稿を見逃さない姿勢を示したことは、一定の抑止につながろう。

 ヤフーは、投稿を削除するAIの機能の一部を他社に無償提供する方針も示している。業界全体で実効性ある取り組みを進めるきっかけにしてほしい。

 ヤフーはこれまでもAIと人の手作業で投稿のチェックと削除を進めてきたが、その数は月間数十万件にも上るという。書き込みと削除は、いたちごっこの様相だ。

 木村さんの事案を受け、7月には一部サイトのコメント入力欄に投稿内容について熟慮するよう促すメッセージを表示し始めた。

 同業のツイッターも、投稿に対して返信可能な人の範囲を自分で選択できる機能を追加した。

 ネットでの中傷が社会問題化する中、業界の危機感が被害を未然に防ぐ対策強化を迫った形だ。

 今回の基本方針では、個人を中傷する恐れがあり閲覧者が不快に感じる表現を具体的に例示し、不適切な投稿を繰り返す人がIDを変更した場合も同一人物と確認できれば停止を可能にするという。

 従来より強い対応を打ち出したといえる。ただ、大きな柱であるAIによるチェックと削除の拡大については、本来削除すべきでない投稿まで機械的に削除対象にしてしまうなどの懸念もある。

 AIがどのような理由で削除したのか、表現の自由の観点をふまえ、説明を尽くす必要がある。

 基本方針には、削除や投稿停止になった利用者が異議申し立てできる専用窓口の設置を盛り込んだが、当然のことだ。

 プラットフォームと呼ばれるインターネットサービスの基盤は、もはや公共財とも言える。事業者にも相応の責任が求められる。

 不当な中傷を防ぐとともに基本方針の運用指針を明確にし、安心して利用できるネット空間を築く努力をさらに進めてほしい。