1966年に静岡県で一家4人が殺害された強盗殺人事件で、死刑が確定した元プロボクサー袴田巌さんの第2次再審請求に対し、最高裁第3小法廷は裁判のやり直しを認めなかった東京高裁決定を取り消し、審理を高裁に差し戻す決定をした。

 再審の道が残されたとはいえ、無実を訴える袴田さんの請求審はさらに長期化することになる。

 5人の裁判官のうち2人は、差し戻さず直ちに再審を開始するべきだとする反対意見を出した。

 「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則に照らせば、再審の入り口でまたも時間を費やすことなったのは残念だ。

 高裁に早期の再審開始を求めたい。

 争点となったのは、犯行時の着衣とされた「5点の衣類」が袴田さんのものかどうかだ。

 事件から1年2カ月後、勤務先だったみそ製造会社の、みそタンク内から見つかり、有罪認定の有力な物証となった。

 衣類に付着した血痕について弁護団は、DNA鑑定に基づき「袴田さんや被害者のものではない」と主張したが、最高裁は衣服の劣化などで個人を識別できる証拠価値はないと判断、決着をつけた。

 一方、最高裁が新たな論点として着目したのは、弁護団が行った衣類のみそ漬け実験の報告書だ。1年以上漬ければメイラード反応と呼ばれる効果で「血痕が黒くなり、赤みが消える」とした。

 発見時の証拠記録には「濃赤色」などの記載があり、実験結果通りなら衣類は袴田さんの逮捕後にほかの誰かが捨てたことになる。

 最高裁は「犯人であることに合理的疑いを差し挟む可能性が生じる」として、専門的な知見に基づく審理を高裁に求めた。

 だが血痕の色の変化を調べる再現実験などを行うとなれば、かなり時間がかかるとみられる。

 審理が長期化する原因として、刑事訴訟法に再審の場合の証拠開示手続き規定がないことや、再審開始決定に対する検察の抗告権を認める制度上の問題が指摘されるが、政府は法改正に消極的だ。

 死刑確定から40年。袴田さんは2014年に静岡地裁の再審開始決定を受け、逮捕から48年ぶりに釈放されたが、その後も再審決定が取り消されるなど揺れる司法の判断に翻弄(ほんろう)されてきた。

 袴田さんと、再審請求している姉秀子さんはともに80代、残された時間は多くない。再審の扉をずるずると遠ざけてはならない。