大臣在任時の現金受領疑惑が収賄事件に発展した。

 吉川貴盛元農相が、鶏卵生産大手「アキタフーズ」グループの元代表から農相在任中に現金500万円を受け取ったとされる疑惑で、東京地検特捜部が収賄や政治資金規正法違反の疑いで事務所を家宅捜索し、強制捜査に乗り出した。

 吉川氏は特捜部の任意の事情聴取に現金受領を認めているとされる。元代表は周囲に、鶏卵業界に有利な政策を実現するために現金を渡したと説明しているという。

 農林水産行政トップが裏金を受け取り、業界との癒着によって政策がゆがめられたという疑念が国民の間に渦巻いている。

 吉川氏は体調不良を理由に22日に衆院議員を辞職した。事実上の引責だとしても疑惑の追及は免れない。体調面に配慮しつつ、徹底した検察の捜査と国会での事実解明が求められる。

 関係者によると、吉川氏は農相だった2018年10月~19年9月、大臣室などで3回にわたり現金計500万円を受け取った疑いがある。同氏は任意の聴取に「預かったお金で返すつもりだった」と説明し、賄賂性を否定しているとされる。通用するだろうか。

 農相在任中に少なくとも8回面会し、大臣室に秘書官も入れない密室で元代表と会う異例の対応だったという。広く権限を持つ大臣の職務に関する賄賂だった疑いが拭えない。

 そうした疑念を深めざるを得ないのは、元代表が鶏卵業界に有利な政策をとるよう政治家や官僚に陳情を繰り返し、実現してきた経緯があるからだ。

 吉川氏の農相在任中、業界最大の懸案は家畜を快適な環境で飼育する「アニマルウェルフェア」(AW)の導入だった。採算悪化を訴えて元代表は農水省が反対するよう働きかけ、国際機関の基準案が修正された。

 鶏卵価格の下落時に生産者を支援する制度でも元代表が積極的に動き、相次ぎ拡充された。そうした活動のために現金が提供されたのは明らかだろう。

 アキタ社を巡っては、農林水産族議員の重鎮である西川公也元農相が内閣官房参与だった18年以降に数百万円を提供した疑いもある。特捜部は西川氏にも任意の事情聴取をしている。

 西川氏は「一身上の都合」で同参与を辞任したが、贈収賄事件の広がりとともに菅義偉政権の責任も問われよう。

 事件の核心は、政官業の癒着構造に他なるまい。元農相2人への現金提供は、検察がアキタ社の家宅捜索で押収した資料から浮上。多くの族議員や農水省幹部への工作リスト、現金授受の資料もあったという。

 農林水産行政への信頼が大きく揺らいでいる。癒着の全容を解明するとともに、これまでの政策の検証と再発防止策の熟議が欠かせない。

 発端となったアキタ社への家宅捜索は、河井克行元法相夫妻の参院選買収事件に絡んで行われた。いまだ安倍晋三前首相の「桜を見る会」問題の疑惑も晴れない。「政治とカネ」を巡る国民の不信感の高まりに国会は向き合わねばならない。