欧州経済が混乱する懸念は、ひとまず回避されたようだ。

 欧州連合(EU)を離脱した英国とEUとの間で難航していた自由貿易協定(FTA)を巡る交渉が合意に至った。

 協議が決裂すれば離脱移行期間が終わる来月から英国とEUの間に関税が発生し、企業などに打撃となる心配があった。

 新型コロナウイルス感染で経済が冷え込む中、危機回避に向けた現実的な判断といえる。

 英EU貿易は今後、英国がEU単一市場に残留する年末までと同様に、「無関税、数量無制限」の自由貿易が維持される。

 半面、検疫や原産地証明といった国境手続きが必要になる。現在のような円滑な物流は保てなくなりそうだ。金融など扱いが未定の分野も残っている。

 今回の合意で、英国とEUは新たなルールでの通商関係を本格始動させることになる。先送りした課題をどう解決し、双方の発展につなげるか。ともに難しいかじ取りを迫られよう。

 交渉では、懸案のいくつかで双方が妥協する姿勢を見せた。

 漁業権を巡っては当初、好漁場の英周辺海域で操業を続けたいEUに対し、海域支配で主権回復を目指す英政府が難色を示した。しかし、EUが現状の漁獲割り当ての25%を英側に引き渡し、5年半の移行期間を設けることで英政府と折り合った。

 ビジネスへの補助や規制についても、EU並みの競争条件を求めるEUと、独自基準設定を主張する英政府が衝突したが、最終的に双方が歩み寄った。

 互いに重要なパートナーだとの認識は変わらない。米国に迫る経済力を持つEUにとって、英国は人口の10%、域内総生産の15%を占める大国だ。英国が去ると単一市場の存在感低下にもつながる。

 一方の英国も、輸出の43%、輸入の52%はEUが相手で依存度が高い。EUの後ろ盾なくして経済は立ちゆかない。

 EU離脱強硬派だったジョンソン英首相は交渉合意後の会見で「英国の運命の決定権を取り戻した」と強調したが、決裂寸前までもめた経緯は両者の経済的なつながりの密接さをかえって浮き彫りにしたといえる。

 英国は2016年6月の国民投票でEU離脱を選択したが、今年2月に離脱が決まるまでに首相2人が退陣、EUと交渉してまとめた離脱合意案が3回も否決されるなど混迷が続いた。

 今回のFTA合意をふまえ、英国は独自の通商戦略を加速させるというが、EU域内への人の移動や移住は厳しくなり、ビザが必要なケースも出てくる。

 動画などのEU内での提供も制限がかかり、娯楽産業にも影響が及ぶという。ヒト、モノ、サービスの往来は従来通りにはいかず、合意が英国の新たな成長につながるかは見通せない。

 欧州は、コロナ対策で国境を超えた結束が求められている。難交渉のしこりを残さず、感染収束に協力しあってほしい。

 日本は昨秋、英国といち早く経済連携協定(EPA)を結んでおり、来月に発効する。米中など保護主義的な動きが見られる中、自由貿易の新たな連携を深めてもらいたい。