なりふり構わない弾圧に戦慄(せんりつ)を覚える。

 香港警察が年明け早々、香港国家安全維持法(国安法)違反の疑いで民主派の一斉逮捕に踏み切った。国際社会の懸念をよそに、反対勢力の存在を容認しない中国、香港両政府の強硬姿勢は暴挙と言うほかない。

 逮捕されたのは民主派の政治家らで、別件で収監中の再逮捕者を含め計55人に上った。昨年秋に予定されていた立法会(議会)選挙に向け、民主派が7月に実施した予備選に絡み、国安法の国家政権転覆罪の容疑に問われた。同罪の適用は昨年6月の法施行後、初めてとみられる。

 香港警察によると、うち6人が政権転覆行為を組織し、他は転覆行為に参加した疑いという。一部は保釈されたが、どんな行為が法に触れ、なぜ最高刑が終身刑という重罪が疑われるのか、具体的な内容は明らかにされていない。

 予備選では民主派への香港市民の強固な支持が示された。だが中国の習近平指導部は、予備選が法律で定められた制度ではないため違法と断定。これを受け香港警察は、民主派が議会の過半数獲得で政府機能のまひを狙い、政権転覆を図ったと見なしたようだ。

 国安法の怖さは、当局の意向でどうにでも適用できることだ。香港警察は法施行以降、昨年末までの半年間に40人を同法違反容疑で逮捕しているが、今回は過去最多の逮捕者数となった。

 予備選で実務を担った団体で会計担当の米国人弁護士も逮捕された。国安法による初の外国人の逮捕とみられ、日本人を含め香港での身の安全が保障されないことが明らかになったとも言える。

 香港では民主派を排除したい中国政府と、その意を受けた香港政府が一体となり、国安法を盾に民主派を相次いで逮捕し、議会から一掃してきた。穏当な政治活動であっても「犯罪」と見なされかねない。中国自身が世界に誓約した香港返還時の「一国二制度」の形骸化は一段と鮮明になった。

 一斉逮捕は、人権問題に厳しいとされるバイデン次期米政権の発足前の政治空白を突いて行われた。習指導部は「核心的利益」である香港問題で譲歩の余地はないとの姿勢を示したのだろうが、国際社会の不信を増幅させただけだ。

 それでも中国は内政問題であるとして、国際的な批判に聞く耳を持たないようだ。だが強権を振りかざして民主主義や自由を踏みにじる行為は、大国の振る舞いとして決して許されない。