米国の民主主義にとってあるまじき光景だった。

 昨年の大統領選の結果に抗議するトランプ大統領の支持者らが連邦議会議事堂を占拠し、5人が死亡する惨事が起きた。

 議事堂では、選挙人の投票結果を認定するための最終的な手続きが行われていた。トランプ氏はホワイトハウス前で開いた集会で、敗北を絶対に認めないと重ねて表明し、集まった支持者に議事堂に向かうよう訴えていた。

 強大な権力と影響力を持つ現職大統領が実力行使を暗に促し、前代未聞の混乱と惨事を招いたと言える。その責任は極めて重い。

 米社会では、人種や宗教、所得などさまざまな面で分断が進んでいる。選挙戦では、候補の支持者同士が武装してにらみ合う場面もあった。

 今回の占拠は、憎悪をあおり続けてきた4年間のトランプ政治がたどり着いた帰結点だとも言えよう。

 トランプ氏は、各州での開票結果が確定してからも、「地滑り的勝利を収めた」「選挙を盗まれた」などと根拠のない主張を続けてきた。

 デモの暴徒化が批判されると撤収を呼び掛けた。翌日にはバイデン氏の勝利を認め、占拠に関与した支持者について「悪質な攻撃だ。米民主主義の府を汚した」と述べた。しかし、自身の言動が引き金となって重大な事態を招いたことへの謝罪はないままだ。

 法の支配を軽視し、意に沿わない結果を暴力によって覆そうとする行為は許されない。バイデン次期大統領は「議会を襲撃するよう暴徒をあおった」と述べ、国内外で非難の声が多く上がっている。

 こうした事態に、現政権の閣僚やホワイトハウス高官は相次いで辞任を表明し、トランプ氏の解任論も浮上している。

 任期切れ直前になって、トランプ政権は事実上瓦解(がかい)し始めていると言える。今はまず、平和的で円滑な政権移行を進めなければならない。トランプ氏を擁護してきた共和党は協力するべきだ。

 民主党は南部ジョージア州の上院決選投票で2議席とも獲得し、上下両院で主導権を握ることが決まった。ただ、今回の暴挙が象徴する国内の根深い亀裂の修復は容易ではない。

 地に落ちた米国の民主主義を立て直す重い責任が民主、共和両党に突きつけられた。20日に誕生するバイデン新政権は、難しいかじ取りが求められる。