相手の手に自らの手を重ねて「会話」する―。「触手話(しょくしゅわ)」は光も音もない世界で生きる盲ろう者が社会とつながる扉を開く。新型コロナウイルスの感染を防ぐために「距離」が求められる時代。昨夏、コミュニケーションの機会が失われ、衰弱した状態で見つかった盲ろう者が滋賀県にいた。(森敏之)

触手話で相手の思いを読み取る川瀬さん。自分の気持ちを伝える際、盲ろう者に対しては触手話、目の見える人には普通の手話を使う(昨年12月25日、近江八幡市安土町)

 取材を申し込むと、彼女は右手を差し出した。私はその手を両手で包んだ。彼女は私の手に左手も重ねた。掌(てのひら)を通じて伝わってくるぬくもりと、深いしわ。彼女は手を離し、拳を握ってぶるぶると震わせた。

 冷たい手なのですね

 手話通訳者が、初対面の私の印象をそう話してます、と説明してくれた。

 滋賀県東近江市の川瀬冨美子さん(72)は生まれた時から耳が聞こえなかった。40代で目の病気を患い、50歳ごろ完全に視力を失った。ヘレン・ケラーと同じ「盲ろう者」だ。光も音もない世界で生きる彼女には、他者との手と手の触れ合いが目と耳の役目をしてくれる。

盲ろう者の交流の場「たっち」会場のアパート入り口にかかる看板

 私は昨年10月、「新型コロナウイルスの感染拡大後、極度に衰弱した盲ろう者が滋賀にいる」と人づてに聞いた。互いに距離を取る必要性が叫ばれる中で、人に触れなければ生きていけない人の今を知りたい。川瀬さんが所属するNPO法人「しが盲ろう者友の会」(近江八幡市)に本人への橋渡しを頼んだ。

 2週間後、初めて川瀬さんと会った。手話を解さない私が川瀬さんに質問を伝えるには、耳が聞こえる通訳者と、川瀬さんと詳細に意思疎通できる通訳者の2人の協力が要る。まず健聴者の通訳者が私の質問を聞き、手話を母語とする聴覚障害者の通訳者に手話で伝える。次に聴覚障害者の通訳者の両手を川瀬さんが握り、手の動きで意味を理解する。「触手話」という。