米国大統領にバイデン氏が就任し、新しい政権がスタートした。

 就任演説で「米国を結束させ、人々と国家を団結させる」と述べた。国内の融和を図り、国際協調を重視する決意の表れといえる。

 だが、前任のトランプ政権が残した傷痕は深い。今月6日の連邦議会議事堂襲撃を受け、就任式が厳戒態勢の中で行われた異例さが象徴するように、米国社会の混乱と分断は深刻さを増している。

 昨秋の大統領選でバイデン、トランプ両氏の得票数はそれぞれ史上1、2位だった。多くの有権者が関心を寄せた選挙結果は、国民の分裂を如実に示した。

 トランプ氏支持層にはバイデン氏当選を「不正」と信じ込む人も多い。融和の難しさを物語る。

 「負の遺産」背負って

 「自国第一」を掲げたトランプ氏の路線は、世界の中で米国に対する信頼を大きく損ね、国際秩序の不安定化にもつながった。

 バイデン政権は、前任者の「負の遺産」を背負う試練の出発となる。それでも、反対勢力に積極的に語りかけ、対立の糸をほぐしていく努力が欠かせない。

 年明けに米コンサルティング会社ユーラシア・グループがまとめた「2021年の十大リスク」のトップは「第46代大統領(バイデン氏)」だった。米社会の亀裂の深さが、バイデン氏の政策実行を困難にするとの見立てだ。

 米国内では、上位1%の富豪が下位90%を合わせた分の富を保有しているとも言われるほど、経済格差が極端に広がっている。トランプ氏はそうした構造を放置したまま、移民が仕事を奪っているなどとたきつけ、白人労働者らの不満をあおって分断を加速させた。

 国民が所得水準や人種、支持政党などで集団化し、互いを攻撃する傾向が顕著になっている。ソーシャルメディアでのやりとりがそうした対立を先鋭化させている。

 亀裂の修復は一筋縄ではいかない。だが、目の前の課題には着実に取り組まねばならない。

 格差の溝を埋めねば

 まずは新型コロナウイルス対策だ。世界最多40万人の死者を出した感染を食い止め、ワクチン普及に確実な道筋を付けるという。

 1兆9千億ドル(約200兆円)規模の追加対策をまとめ、その半分を家計支援につぎ込むとする。雇用や生活の危機に直面する国民への手当を優先させる構えだ。

 大きな格差の溝を埋めることにつながれば、融和への一歩ともなろう。富の再配分への議論を促す契機にもなりうる。

 経済政策では雇用創出と製造業の国内回帰を求めるなどトランプ氏と似た手法をとるという。政権奪取の原動力となった労働者や中間層の支持固めの狙いもありそうだ。保護主義的な路線に陥らないよう注意する必要がある。

 トランプ氏の看板政策だった厳しい移民対策は人道的に対応する方向へ転換するが、移民に否定的な保守派との摩擦も生みそうだ。

 ハリス副大統領をはじめ閣僚にはマイノリティーや女性など「多様性」を象徴する顔ぶれが並ぶ。白人男性が要職を占めてきた米国の政治・社会の仕組みを変えることにつながるかも注目される。

 分断の背景には、人口減少で社会の多数派の座を追われる白人層の焦りがあるとも指摘される。融和策を進めるほど、反発する勢力とのいざこざも際立つ。

 意見の異なる層にも届くメッセージと、生活改善の具体的な政策に知恵を絞ることが欠かせない。

 国際社会との関係を再構築することも大きなテーマだ。トランプ氏は外交も取引ととらえ、国際協調という視点が欠落していた。

 コロナ対策や気候変動など地球規模の問題解決には、各国との連携が欠かせない。前政権が離脱を決めた世界保健機関(WHO)や温暖化対策のパリ協定などへの復帰にかじを切ったバイデン氏の姿勢は歓迎できる。国際秩序に安定を取り戻すことにもつながろう。

 国際協調の中で共存

 外交面では、経済や安全保障面で対立を続ける中国との関わり方が課題だ。バイデン氏は中国に対する国内の厳しい世論を踏まえ、人権や貿易問題では前政権と同様に強い姿勢で望む考えのようだ。

 「自由と民主主義」を掲げる米国と、共産党が国家を指導する中国との間にある価値観の違いは、容易に埋まるまい。

 ただ、両大国の敵対は世界に及ぼす影響が大きい。中国の経済・軍事面での野心を抑えつつ、国際協調の中で共存できる枠組みを模索していくことが重要だ。

 日本も外交戦略の深掘りが求められる。菅義偉首相は昨年11月の電話会談で、沖縄県・尖閣諸島が米国による防衛義務を定めた日米安保条約の適用対象との言質を得た。日米安保の重要性は再認識されたといえるだろう。

 ただ、バイデン氏は気候変動や核不拡散などでは中国と協力する姿勢も示す。米中関係は状況に応じて変化する可能性がある。

 日米関係は、安倍晋三前首相とトランプ氏のような首脳同士の個人的関係だけでなく、実務的な信頼の積み重ねが必要だ。国際情勢を見極め、柔軟に対応することが欠かせない。