開発や実験、保有を許さず、使用をちらつかせる威嚇も禁じる「核兵器禁止条約(核禁条約)」がきのう発効した。

 広島、長崎の被爆者たちが、核の惨禍を繰り返すなと訴え続けてきた願いを、ようやく結実させた歴史的な日だ。同時に、「核なき世界」に向けて国際社会が歩みを始める出発の日でもある。

 現実の世界は、米国やロシア、中国などが核兵器を保有し、核抑止論が幅をきかせている。北朝鮮やイランの核開発の動き、核保有国であるインドとパキスタンの紛争も起きている。

 条約発効を受け、国連のグテレス事務総長が「核兵器の危険性はますます高まっている」と警告を発したのも、厳しい現実認識からだ。核廃絶は単なる理念ではない。実現に向けた「早急な行動」を国際社会に強く求めた。

 核兵器を違法とし、廃絶を掲げた条約は史上初であり、とりわけ核の非人道性を掲げた意義は大きい。核抑止論につながる「必要悪」ではなく、被爆体験から導かれた「絶対悪」に通じるからだ。

 絶対悪の核兵器を持ち続ける説明を、保有国は求められることになる。核の非人道性に目を向けた国際世論は、核競争を抑え、廃絶への力になるはずだ。

 条約には51カ国・地域が批准した。残念ながら、米国など核保有国と、日本など「核の傘」の下にある各国は、条約を非現実的として背を向けている。しかし、現実的とされる核拡散防止条約(NPT)は、核保有国の利害対立で進展していない。

 核保有国に委ねず、国際社会が核廃絶をめざすところに核禁条約の新しさがあろう。現実の力となるには参加国を増やす必要がある。条約採択に尽力しノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)が次のステップとする点だ。日本でも被爆者団体や若者が、条約参加を求める署名活動を展開している。

 米国ではバイデン大統領が就任した。オバマ元大統領の「核なき世界」をめざす理念を継承するとみられ、核をめぐる環境が変わると期待したい。

 しかし、菅義偉首相は締約国会議へのオブザーバー参加にも消極的だ。それでは保有国と非保有国の橋渡し役は務まらず、核廃絶へのアプローチを訴えても国際社会に届くまい。

 条約には、「ヒバクシャ」の苦痛を心に留める、とある。戦争被爆国として使命を果たすべきだ。