創造する新鋭たち

3回目の精華 伝統と現代性を丹念に

 京都ゆかりの新鋭作家の作品を展示する「京都 日本画新展2021」が29日、京都市下京区の美術館「えき」KYOTOで開幕する。大賞の石橋志郎さんの「Tone」など39点と推薦委員の作品7点が披露される。

大賞 石橋志郎「Tone」

 同展は創造性あふれる若手の日本画家を支援するため2008年に創設。19年から京都府と京都市、京都商工会議所が共催に加わった。京滋を中心に関西の芸術系大学教授ら有力作家計7人に推薦委員を委任。京友禅の人間国宝森口邦彦さんをはじめ美術館学芸員、美術評論家ら計6人の選考委員が受賞作品を選んだ。

 20~40歳代の出品作家のうち、初出品は4割近くにのぼった。各賞受賞者6人中、3人が過去に同展で受賞歴があり、実績ある作家が実力を発揮したかたちだ。

■出品作家
新屋小百合 池上真紀 石橋志郎 井上舞 今岡一穂 岩泉慧 上野モモ 大木万由 小形栞 織田沙希 開藤菜々子 梶浦隼矢 上岡奈苗 川上歩 川瀬美帆 菊地将宗 楠本衣里佳 小谷光 小林紗世子 清水葉月 白川奈央子 田尾桜 竹内茉利 田中彩乃 田中達也 谷内春子 千坂尚義 釣谷梓 中村七海 西田鳩子 西本実紀 登玉梓沙 濱田卓也 峯石まどか 三好温人 森紗貴 楊喩淇 吉原拓弥 渡邊佳織

■推薦委員
石股昭(奈良芸術短大教授)
雲丹亀利彦(京都精華大教授)
大沼憲昭(嵯峨美術大教授)
川嶋渉(京都市立芸術大教授)
菅原健彦(京都芸術大教授)
西久松吉雄(成安造形大名誉教授)
村居正之(大阪芸術大教授)

■選考委員
太田垣實(美術評論家)
國賀由美子(大谷大文学部教授)
野地耕一郎(泉屋博古館東京館長)
畑智子(京都文化博物館学芸課長)
森口邦彦(友禅作家、重要無形文化財保持者)
山田諭(京都市京セラ美術館学芸員)
(五十音順、敬称略)

講評 國賀由美子

 装いも新たに再々スタートを切った「京都 日本画新展」も第3回目を迎えた。11月のある日、選考委員6名は各々選考会場に到着。例年、会場にはすでに全作品が並べられている。入るや否や、今年の雰囲気が伝わってくる。すぐに全39作品の一点一点に見入る。選考委員は皆、会議開始前に出品作品の概要を把握する。そして審議に入ることになる。

 まずは、6名それぞれが授賞候補作10点を選ぶ。何とこの段階で満票の6票を獲得した作品が1点。大賞を得た石橋志郎氏「Tone」であるが、この段階ではまだ決まらない。次いで5票が2作品(これも優秀賞の池上真紀氏「慈光」と、楊喩淇(ようゆき)氏「雨火花」だが同様である)、4票が2作品、3票が2作品であった。次ぐ2票を得た9作品から3作品を投票でしぼり、計10作品で再投票。やはり満票の6票を獲得したのは上記の3作品であり、うち大賞を満場一致で「Tone」とする。次ぐ4票は2作品、3票も2作品であった。奨励賞3作品はこれら4作品からということになるので、3票の2作品から1点を選ぶ。選考委員は偶数であるため、意見は3対3に分かれた。さらに慎重な協議の結果、残りの奨励賞1作品を決めることができた。

 先に今年の雰囲気、と書いたが、それは選考委員方の思いをまとめると、次のようなことである。まずは回を重ね、選に残るような完成度の高い作品が目立つようになってきた。そして、コロナ禍による「おうち時間」の影響を指摘する声もあったが、描写の細かい、いわば手間暇かけた丹念で、落ち着いた制作態度を感じるものが今年は多い。そして全体に、伝統と現代性、双方バランス良く、3度目の今回にしてようやく多様性に富む出品作となった。

 一方で、気になった点もある。たとえば、箔(はく)を使う。絹地に描くなど、日本の絵画の伝統技法に回帰した出品作が増えた。これは技法を守り伝える、という面でもたいへん喜ばしいことなのだが、今回そのような作品は選に入らなかった。なぜ、こういった技法を使うのか、技術の習熟という以前に、このやり方で絵をつくる、その必然性がよく見えないのである。今回であきらめずに是非、技法を見極めた上でのチャレンジを成功させてもらいたいと思う。

 出品者39名の平均年齢は29.2歳、うち初出品者は半数近い15名であったが、このフレッシュさも「京都 日本画新展」に未来への希望をもたらしている。

 さて、大賞の石橋志郎氏「Tone」は、薄墨のグレーと白い顔料だけで表現する。その技法の習熟、完成度に選考委員全員から感嘆の声が出た。画材を吟味して選び取り、塗り込める技術力。画面の基底部を鋭角にすぼめているのはライトの当たり、つまり陰影への配慮だろうか。雪空を追求し描いてきた石橋氏だが、ここでは灰色の空に積もる雪を想わせる以上に、心の深遠に舞い降り重なった何かを想像させる。もっと、目を凝らして見ると、いろんなものが見えてきそうで、選考委員全員の心をつかんだ。

優秀賞 池上真紀「慈光」

 優秀賞の池上真紀氏「慈光」は、去年の優秀賞「幽幻」とともに、光彩による夢幻性を求めながらも存在感のある作品。線もしっかり引けていて美しい。動植物を問わず命あるものの高貴さを感じさせる。どこか一つ殻を破れば「大賞」ということだろう。自分の破るべき殻を探し、ぜひ見つけて果たしてほしい。

優秀賞 楊喩淇「雨火花」

 もう1点の同賞、楊喩淇氏「雨火花」は、盛りを過ぎた菊の描写に迫真性があり、時を切り取ったかの感がある。夜の静寂の森の一瞬か。モノクロームと色彩、明瞭な表現とぼかした表現の対比バランスも良く、描く力がある作家だ。

奨励賞・京都府知事賞 峯石まどか「孔雀」

 京都府知事賞(奨励賞)の峯石まどか氏「孔雀」は、昨年同様、国芳ばりの「寄せ絵」による。今回は屏風装にし、正面からどっしり羽を広げたところをとらえた。手指の表現、とくに指の関節の表現はややうるさいように思うが、昨年の「くじゃく」より構図なども大幅に進歩した。

奨励賞・京都市長賞 清水葉月「帳」

 京都市長賞(奨励賞)の清水葉月氏「帳」は、昨年の優秀賞に続く入賞。一昨年、そして昨年作からさらに単純化され、日本画らしい味わいを深めた。「京都 日本画新展」の抽象を担う作家となりつつある。

奨励賞・京都商工会議所会頭賞 井上舞「ソノサキ」

 京都商工会議所会頭賞(奨励賞)の井上舞氏「ソノサキ」は、大黒天のパロディーだろうか。結んだレジ袋をわきに置いて、スリッパ姿でビール瓶のプラスチック箱に憩う今風女性が手にするのは、スマホではなく経本に見える。洞(うろ)に配線のからむ松の木はシャッターに描かれたペインティングであるようだ。一方のもくもく漂う雲は、空調の室外機から発生している様子で、こちらはこの女性の現実空間のものである。作品の中で現実と虚構(ペインティング)をミクスチャーさせるのは作者の意図かもしれないが、わかりづらい部分もあるのでもう少し整理してもいいだろう。

 このように、第3回を迎え、「京都 日本画新展」の出品作は、着実に歩みを進めていると言えるだろう。ことに今年は満場一致で大賞、優秀賞を選出できたのが、本展の精華を導き出せた証として、たいへん嬉(うれ)しく思う。(大谷大学文学部教授)

開藤菜々子「いろはにいし」
渡邊佳織 「列車の到着」
川上歩 「24/7」
吉原拓弥 「天ノ狗」
推薦委員作品 西久松吉雄 「供物」
推薦委員作品 村居正之 「円月島暮色」
推薦委員作品 大沼憲昭 「龍気」
推薦委員作品 菅原健彦 「神代開花」
推薦委員作品 川嶋渉 「粒であり波である」
推薦委員作品 雲丹亀利彦 「あの刻」
推薦委員作品 石股昭 「楽葉譜」


【会期】1月29日(金)~2月8日(月) 会期中無休
【開館時間】午前10時~午後7時半(最終日は午後5時まで) 入館は閉館の30分前まで 入場無料
【会場】美術館「えき」KYOTO(京都市下京区、ジェイアール京都伊勢丹7階隣接)
【主催】JR西日本、京都新聞
【共催】京都府、京都市、京都商工会議所
【問い合わせ】075(255)9757