国が事業を凍結している大戸川ダム(大津市)について、有識者でつくる京都府の技術検討会が建設に前向きな提言案をまとめた。

 下流域にある桂川改修の遅れや気候変動の影響とみられる大雨の増加傾向などを踏まえ、整備の必要性や緊急性が高まっていると結論付けた。西脇隆俊知事は近く提出される提言を尊重し、ダムの是非を検討するとしている。

 滋賀、京都、大阪、三重の淀川水系流域4府県は2008年、「施策の優先度が低い」として国に同ダムの整備凍結を求める意見書を提出している。提言案は当時の知事判断を覆すことにつながりうる内容だ。

 被害を抑えるにはダムが不可欠なのか。十分な根拠に基づいて判断する必要がある。

 提言案は、桂川などが氾濫した13年の台風18号と同等の雨が降れば、京都市を中心に最大約3兆円の被害が出るとした国土交通省近畿地方整備局の試算に沿っている。ダム完成までには調査や設計などで長期間が必要と想定されるため、工事着手に向けた対応を急ぐよう求めている。

 近年は想定を超えるような豪雨による災害が全国各地で相次いでいる。住民の命を守る対策は急がなければならない。だが、ダムの建設で被害が「解消される」(国試算)と言うには明確な根拠が必要だ。台風18号による府内の実際の被害総額は約177億円で、国の試算とは大きな開きがある。

 同ダムを巡っては、滋賀県の三日月大造知事が19年に建設を求める方針に転換し、大阪府の吉村洋文知事も今月、整備容認の意向を明らかにした。しかし、時間的に十分な検討がなされたとは言い難い。京都府の技術検討会も昨年12月から3回しか開かれていない。

 08年の4知事意見のベースになった淀川水系流域委員会での審議は、住民の参加や会議の公開など透明性と情報公開を徹底し、時間をかけてダムの有効性やコストなどが検討された。激甚化する最近の災害への対応が急務としても、丁寧な議論が求められることに変わりはない。

 国は時間と費用がかかるダムや堤防だけでなく、危険区域からの住民移転などを組み合わせた「流域治水」の推進を打ち出している。災害情報の伝達や避難先の確保など、幅広い視点から地域防災の在り方を考える必要がある。治水だけでなく、環境やまちづくりなど多様な分野の専門家と住民を交えて議論を深めるべきだ。