予約した簡易宿所に向かって鴨川沿いを歩く中国人の家族連れ(京都市下京区)

予約した簡易宿所に向かって鴨川沿いを歩く中国人の家族連れ(京都市下京区)

 京都市下京区の鴨川近くにある民家の玄関前には水が入ったバケツと消火器が並ぶ。「たばこの不始末などが怖くて」。住人の女性はため息交じりに話す。

 一帯では近年、民家を改装したゲストハウスなどの簡易宿所が急増した。女性は火事や犯罪への不安を募らせ、防犯用ライトも自費で取り付けた。「住民が減り、町内会が成り立たなくなった。宿が増えてもうれしいことはない」

 簡易宿所は、旅館業法に基づく営業許可を受けた施設。京都観光の好調を受け、市内ではここ数年で爆発的に増えた。8月末時点で2627棟となり、5年前の7倍近くに達した。ホテルや旅館に比べて客室の数や面積の基準が緩い。その上、6月施行の住宅宿泊事業法(民泊新法)で営業日数が年180日以内に制限された民泊とは違い、1年中営業できる利点が注目され、開設の動きが加速した。

 特に目立つのが京町家を改修した一棟貸しだ。和の文化体験を求める外国人観光客に人気だ。市は2012年、一定条件を満たす京町家を対象に玄関帳場(フロント)の設置免除などを盛り込んだ独自ルールを設けた。この結果、5年前に十数棟しかなかった京町家の簡易宿所は今年9月末で597棟に拡大した。

 だが、市の想像を超える開業ラッシュが過当競争を招いた。時期や場所によっては1泊2千円前後の宿も登場し、外国人旅行者らの争奪戦が過熱する。

 東山区の寺社や景勝地に近い簡易宿所。中国や欧米から多くの旅行者を迎えてきたが、12月分の予約は昨年の半分にとどまる。経営者の女性(41)は「東京五輪まで持たないかもしれない」と不安を隠さない。

 宿泊施設の運営や市場調査を手掛ける「あってぃら」(左京区)は昨夏、所有する簡易宿所を売却し、運営受託に特化した。荻原宏章社長(33)は「需要に対して宿泊施設数は増えすぎだ。今後は立地や運営戦略がよくない施設の廃業が増えるだろう」とみる。

 今年5月、京都の簡易宿所業界に衝撃が走った。市議会で旅館業適正化条例が改正され、民泊の半径800メートル以内に管理者を置く「駆け付け要件」が簡易宿所にも適用されることが決まった。フロントの施設外設置を認める物件にも一定の制限がかかった。市は「家主不在型の民泊と基準をそろえ、適正化を促す」と意義を説くが、簡易宿所には不満の声が渦巻く。

 「このままではゲストハウスは冬の時代になる」

 市内で京町家の簡易宿所を中心に宿泊施設50棟を管理運営するトマルバ(下京区)の山田真広取締役(30)は危機感を募らせる。月間の平均稼働率は78%で、利用者は千人を超えるが、駆け付け要件を満たすには人件費などで月100万円近くコストが増える。「高級志向のゲストハウスなどで差異化を図りたい。これからはやる気のある事業者しか勝ち残っていけない」と気を引き締める。

 京都簡易宿所・民泊協会(下京区)は9月、「簡易宿所の利点が奪われる」として市に条例改正の見直しを求める意見書を出したが、先行きは見えない。

 ホテルより安く、民泊より規制が緩い宿泊施設として急拡大した京都の簡易宿所だが、競争激化と規制強化に直面し、早くも岐路に差し掛かっている。

 <連載 まち異変 お宿バブルその4>外国人観光客が急増する京都の宿泊業界で異変が起きている。まちにホテルやゲストハウスがひしめき合い、すでに「バブル状態」との指摘が強まっている。一方で、ヤミ民泊や交通渋滞などによる「観光公害」も深刻化している。国際観光都市の今を見つめ、課題を追う。