録音した自分の声を聞いて驚いた。「思っているのと違う!」。そして、こう自分を納得させた。普段話すと同時に聞いている自分の声は、他人に聞こえている声とは違っていて、録音された声が本当なんだ。
しかし、この人は、そう簡単には折れなかった。
京都のバンド「AUX」のリーダーでボーカルの森島映(よう)さん(56)。昨年12月15日夜、京都市伏見区のライブハウス「京都Annie’s Cafe」で開いたライブで、森島さんは演奏前に聴衆に語り始めた。
「レコーディングのたびに『違うっ、僕の声じゃない』と思って、それこそ40年間、ずっと録音のことばかり考えてきた」
新作シングルレコード「鍾意」(ちょんい)の発売を記念したライブ。のはずだが、「講演会 録音道論」と風変わりなタイトルが付けられていた。
「録音道」。つまり、森島さんが録音へのこだわりを語る場でもあったのだ。
自分の歌い声だけでなく、バンドの音でも録音で違和感を感じてきたという。
「録音機はいわばタイムマシン。その性能を追求して毎回違うとり方をしてきたんですが、やっぱりバンドの音もマイク1本で録音した方がカッコイイことが分かったんですよね」
だから、新作シングルレコードもマイク1本で録音。「いい音になった」
録音技術が進んだ現代では、奏者の音をそれぞれ別のマイクで多重録音することが多いだろう。森島さんもそうしてきた。「それでは音が飛びだしてこない。1枚の絵になっちゃう」
森島さんの「独演」は次第に熱を帯び、なかなか終わらない。「このまま演奏なしで、しゃべり続けたいぐらいです」。背後で待つバンドメンバーがさすがにしびれを切らし、森島さんも苦笑いしながら数十分後に、やっと歌い始めた。
森島さんは、京都で結成された人気バンド「くるり」に影響を与えた実力派。機械に記録された自分の声を「本当の声」だと、たやすく受け入れる素人とは対照的に、機械ではなく、あくまで自分の感覚を信じて、「本当の音」を未来に残そうとしている。
夜更けの演奏終了後。森島さんは、なおも「録音道」について語りたそうにしていた。